「あ、なっちゃんだ…おはよー…」

「!名前ちゃんおはようございます。これからお仕事ですか?」

「ううん、今日はオフ…ちょっとコンビニに朝御飯買いに行こうかなって…」

「まだ眠そうですねぇ」

「んー…」



ごしごしと目を擦って返事をする。寮の廊下の窓から差し込む光さえ眩しくて瞼が上がりきらず半目にしかならなくて…もう朝御飯どうでもよくなってきたなぁ。でも部屋に何も無いしなぁ。ああでも牛乳くらいならあるからそれでもい「よかったらうちで一緒に食べませんか?」…!!



「僕も朝御飯まだ食べていないんです」

「…いいの?」

「はい!」

「やったー!有難う!嬉しい!」

「わーいじゃあ張り切って作りますね!」

「!!!!」

「ふふ、楽しみだなぁ行きましょう名前ちゃん」



うおおおおおいちょっと待ってお兄さん…!作るって!作るっていった!なっちゃんが!!この魔のクリエイター四ノ宮那月さんが!!
予想外予想外なんというまさかの展開だてっきり翔が作り置いてくれているものとばかりだってそんなまさかそんなガタガタと震えながら手を引かれて歩く私にさらににっこりと笑ったなっちゃんがとどめの一言。



「おいしくおいしく作りますね!」

「!!!」



はいデッドエンドー!!!心の中で膝から崩れ落ちる私に気づきもせずなっちゃんは鼻歌なんて歌っている。(あ、新曲。)きたよ!ついにこの日が!いつも上手くかわしてくれる翔は今いない。間違いなくデッドエンドフラグだよ!ヘルプ!ヘルプ翔!!「名前ちゃんと一緒嬉しいなぁ」断れる雰囲気がまるでないよ翔は翔はどこだ。
ハッ…部屋にいるかもしれない…なんといったってなっちゃんと翔ちゃんと藍ちゃんの部屋だもの…!



「ふふふさぁどうぞ」

「お、お邪魔しまーす…翔いる?」

「翔ちゃんも藍ちゃんも今日はお仕事ですよぉ」

「そ…!!そう、なん、だ」



これはもう食べるしかないんじゃないだろうかちょっと目の前が霞んできた。私には朝御飯を作ってくれるというこの心優しいなっちゃんの好意を無下にすることはできない。絶対にできない。

ガタガタと調理器具を用意する音が凶器を用意する音に聞こえるもう念仏唱えるしかな………ハッ!



「なっちゃんなっちゃん!」

「はい?」

「私が朝御飯作るよ食べさせてもらうんだからそれは私がするよ」

「え?」

「だからなっちゃんは休んでていいよ!ね!」

「でも名前ちゃん眠そうだし休んでいた方が…」

「超起きてるよ超覚醒したよ」

「いえでも…」

「作りたいの…!」

「……そうですか…?」



じゃあ…となっちゃんが用意している調理器具から手を放し、一歩後ろへと下がる。よし勝った。よくやった、よくやった私、これは生きる!見事デッドエンドフラグをへし折ってやったわ!あとはなっちゃんは向こうのソファで休んでもら「じゃあコーヒー淹れますね」えなかった!!!なかった!!くそう!!!にこにこしながらまた棚に手を伸ばすなっちゃんにまた震えだす足、というか全身。



「……な、なっちゃん私コーヒーは…」

「ボクの淹れるコーヒーは翔ちゃんも美味しいって言ってくれるんですよぉ」

「え…?」

「ふふ、用意しますね」

「う、うん…」



そ、そんなことは…でもなっちゃんは嘘つかないし…でもでも翔がなっちゃんにお世辞言うようなことは決してないだろうし…まさかそんな本当に…

とりあえず朝御飯の用意をしつつ、一応作る現場を監視しようと横で見守るすることにする。
どんなポイズンができあがるのか何が出来ても飲むしかないなぁと不安でいっぱいだったのだが、棚から粉と「…布?」「ええ、ネル布です」「へぇーこれにそのまま粉入れるんだ」「はい、あ、でも使う前にまずお湯を通して、その後水気をしっかり取るんですよ」慣れた手つきでセットしていくなっちゃんはなんだかいつものポイズンクッキングな雰囲気では全くなくて、少しだけ気が抜けてしまった。…というか寧ろ様になっていて、あれ、なっちゃんかっこい……………………いかんいかん乙女になっている場合ではない私はコーヒーの監視をせねばならぬ。目玉焼きを作りながら。




「ふふふ、こうやってね、美味しくなぁれ美味しくなぁれって淹れるんですよ」

「なっちゃんの気持ちがいっぱい篭ってるんだね!」

「ええお料理の時はいつも心をこめてますよぉ」

「…」



いつも逃げててごめん今度いやいつかはちゃんと受け止めるよその心



「コツとかあるの?」

「うーんそうですねぇ…まずお湯は熱すぎると珈琲が苦くなっちゃうので少し温度を下げて、注ぐ時は均一にできるだけ沢山粉にお湯を含ませてあげるんです」

「ほぇー」



含ませたら30秒程ふやかしますと優しい眼差しでお湯をたっぷり含んだ粉を見つめるなっちゃんの顔をじっと見つめていると、なんだかとても優しげで(わたしはその粉になりたい)本当に心こめられてるんだなとじーんときた。うんまぁだからといってポイズン食えと言われても頷けるわけもないんだけれど。命にかかわるからね、命に。でもでもうむむと今後のなっちゃん料理についてしばらくあれこれ考えこんでいたら、なっちゃんがそろそろいいですねとまた先程よりゆっくりと丁寧にお湯を粉へと注ぎ始めた。




「濃茶色で細かい泡があると良くできてるってことなんですよ」

「プ、プロか…!」

「やだなぁプロじゃないですよー」



くすくす笑いながらも手際よくコップ二つに出来たコーヒーを注いで、ミルクとお砂糖を入れて出来上がり。なっちゃん実は料理上手いんじゃないのと勘繰ってしまうほどの出来で、何がなっちゃんをああさせるんだろう。
受け取ったコップからはとても良い香りがして、フーフーと冷ましつつお先に一口。



「…」

「どうですか?」

「………お、おいしい…!」

「!それはよかったです!」

「何これ美味しいすごく美味しいよ!」



何これ何これ!コンビニで買うものとは大違いだよ!!何これぇ!!あまりの感動に二口三口と進めてしまう。やだおいしいー!!



「す、すごいねなっちゃん…!」

「ふふ、ありがとうございます」

「いいなー!毎朝でも飲みたい!」

「わぁ本当ですか?じゃあ僕毎朝淹れますよ」

「え…!嬉しいけどそんないいよいいよなっちゃんも忙しいし…」

「全然大丈夫ですよぉ」

「なっちゃん…!あ、でも淹れ方とか教えてくれれば自分で作るよ。上手くはいかないかもしれないけど練習するし…!」



さすがに毎日お世話になるのは申し訳ない。教えてもらえば自分で「いえ、作らせてください」え?



「なっちゃん?」

「ボクが貴方に淹れてあげたいんです」

「…そ、そう?」

「はい」



ダメですか?


そう言いながら覗きこむように近づいた表情はとても嬉しそうで、予想外に縮んだ距離に吃驚しすぎてそんなダメとかそんなダメとかダメじゃないしと考えるより先に反射的にぶんぶんと顔を振ってしまって、「有難う名前ちゃん!ボク嬉しいなぁ!」さらに嬉しそうななっちゃんが手を広げたかと思ったら思いきり抱きしめてきてぎゃああコーヒーが零れると必死になっているうちにとんでもないことに感極まった四ノ宮さんに唇を奪われてしまったわけです。







(なっちゃん…!)
(名前ちゃん甘いですねぇ)
(砂糖いっぱい追加したからです)






(2012.10.07)
えりさんへ
企画ご参加有難う御座います!
なんだか珈琲メインになってしまってすみません…!
素敵なリクエスト有難う御座いました!
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