「……」


目覚めてすぐに頭を抱えて現実とさよならしたくなるとは思わなかった。「何故ディエゴ」目の前ではディエゴが無駄に綺麗な寝顔を披露しており、私に腕枕をしながらもそれはそれは安らかな寝息をたてている。これがこのような展開でなければ感嘆の息でもついていたところだろうがおかしい。おかしすぎる。まず私はディエゴとはただの良き友人であり、一緒のベッドで寝るような仲では断じて無い。昨夜も共に夕飯を食べ、夜遅くまでどうでもいいようなことを語り合っていたと記憶している。お酒は飲んだだろうか、いや、飲んだ気がする。ああそれか。それのせいか。私はお酒に異様に弱い。少し飲んだだけで頭のねじはぶっ飛んでしまうし記憶がすぽんと抜けてしまう。まさかお酒のせいでこんなとんでもない失敗をしてしまうことになるなんて、飲まないように生きてきたのだが昨夜はディエゴとだからお酒くらい飲んでも大丈夫だろうという信頼から飲んでしまったわけなのだが何故こうなったのだろうか。ディエゴも酔っていたのか、もしくは私が襲ったのか、それは定かではない、が、後者だったら嫌だな、とても。どうしたものだろう穴があったら入ってそのまま消えてしまいたいともんもんとしているところ、ふと違和感に気づいた。いや起きた瞬間から違和感だらけではあったが、そうではなく。「…私、服着てる」

確かにしっかりと着ていた。昨日着ていたままの服だそれは覚えている。どこも脱いだ形跡が見られない。つまり、どういうことだ。あれだ。やってない。ディエゴとそういうことは致していない、と、みていいだろう。うんうんと頷きながら希望の光をさんさんと浴びて心の底からほっとしたわけである、が、だが、しかし、目の前の男はどうみても、その、裸だ。肌色一色だ。おかしい。おかしすぎる。何故一人で脱いでいるのかこの男。こそりと下も手で触れてみたところ(もちろん腰から足あたり)履いていない。完全にアウトだ。嘘だろう、私が服を着ていて何で裸なんだよこの男は。脱ぎ癖でもあるのか、それともまさか、まさか、わ、私がひん剥いてしまったのでは「……何だ、そんなに触るなよ」「……!!!!!」

ぎゃあという声すらもでなかった。心臓が止まるかと思った。


「ディ、ディエゴ、起き、起きたの」

「ああ、起きた。誰かさんが物欲しそうに腰を撫で回したからな」

「撫で回してないちょっと触っただけ!」

「ほぉ、触りたいならもっと触っててもいいぜ」

「ちょ、手掴まないで…!」


寝起きのくせに力強く腰あたりで手を固定されてしまってはどうにもならないああ肌すべすべですねうらやましいですね。しかしあとすこしで変なところに触れてしまうのではないかと内心冷や汗だらけなのを知ってか知らずか目の前の男はにやにやと嫌な笑みを浮かべている。それがまた様になるから憎らしい。美形ってずるい。


「ディエゴさんは何で裸なんですか」

「…教えてやろうか」

「…いややっぱりこわいからい…何で上に乗るのかなぁやめてください密着だめ絶対だめ絶対!」

「何がだめなんだ?」

昨日は嬉しそうにしてたじゃあないか。低く脳にまで響く声と共に耳へ吐息がかかり、ぞわりと肌が粟立った。「うっ…嬉しそう…」とは!どういうことでしょうかと聞きたいけれど全く聞きたくないような気もする。頭の中で嬉しそうにディエゴをひん剥く自分が浮かんだがすぐに消した。ない。ないなそれはない。それでは私が変態じゃあないか。別にディエゴを脱がせたい願望などもないわけだし、ただ、その、いい身体してるよねとは思っていたたけど本当にそれだけで、「何を考えてるんだ、昨夜のことでも思いだしたか」「っ」記憶を辿る旅に出ていた私の首筋へと突如生暖かくざらついたものが這わされた。そのまま辿り着いた耳に熱い息がかかり、身体が強張る。「…男を脱がした感想を教えてくれよ」…………うわぁ「知らなかったぜ、お前があんなに積極的だったとはな」「嘘はいけないです」「嘘じゃあない」嘘だろうまさかそんなことがあるわけがないと自分に言い聞かせてみるがどうやら真実はそこにあるようで、ぼんやりとしていた昨夜のことが、少しずつ見え始めてきてしまった。やめろと思うほど鮮明になるものだ。そう、私はディエゴの筋肉が羨ましくてどういう筋肉の付け方してるんだ見せろや見せろやとうざいほどに絡んだ気がする。結局無理やり脱がしてしまったのか……よく殴られなかったな私。


「…でも何で下まで脱いでるの」

「……」

「えっ何その目!私下までは脱がしてない!」


はず、多分、そうであれ。そうでなければ残り僅かなレディとしての何かが木っ端微塵となってしまう。ただの変態だ。痴女だ。お願いそうであってくれという祈りをささげつつ見下ろす瞳を見つめ返していたら、ディエゴは意外にもあっさりと声を返してきた。「…正解だ、俺が脱いだ」「!」そら見たことか!そうだろうそうだろ………う…………では、なくて、


「何で!?」


おかしいよ!人の家のベッドに全裸で入ってくるなよ!頭大丈夫か!「変態!」自分のことを完全に棚にあげたが気にせずにべしべしと音を立てて目の前にある頭を叩く。さっさと上から退いてくださいという意味もこめていたそれは、しかし、容易く捕まってしまい、そのままシーツへと沈みこんだ。


「脱ぐ手間が省けるからな」

「…脱ぐ」

「おい寝ぼけるなよ」




「恨むなら火をつけた昨夜のお前を恨めよ」煽るだけ煽って即寝やがって、とギラついた刃のような瞳に見下ろされて瞬きすらできずに固まる私はまさに蛇に睨まれた蛙。数時間前の私はよくこの男から逃れたなどうせならもっと遠くまで逃げて鎮火させればよかったのに。「昨日の残りの酒でも飲ませてやろうか」もう二度とこの男の前でお酒など飲むものか。




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