いたい。

じわりじわりと世界が歪み、堪えきれずに端から溢れ出た雫が頬を滑り落ちた。白いブラウスへと跡を残しては吸い込まれて行くそれは、私の意思とは関係なく次から次へと溢れ続けた。部屋の、少しだけ隙間の開いた窓から入る風はひどく冷えており、濡れた頬を乱暴に撫ぜて消えて行く。心地好い。背後で僅かに扉の開く音がしたが、私はただ睫を震わせ続けることしかできなかった。小さく鼻を啜る音が、静かな部屋に響いた。


「…泣いている、のか」


驚いたような、少し浮ついた常と違う声色だった。こんなことには動じない男だと思っていたのに、意外だ。無視をして己の用件を済ますか、面倒だと何も言わずに引き返すのではと思っていた。しかし引き返すような気配もないので、濡れた瞳を隠そうともせずにそちらへと向きなおれば、目を見開くディオ・ブランドーがゆらゆらと世界と共に揺れていた。なんとも、意外だ。


「…っ…」

「おい」

「う…」

「目を擦るな、傷が付く」

「…だっ、て…っ…」


だって、仕方のないことなのだこれは。ディオの方を見ようとしても視界がぼやけてその輪郭すら上手く捉えることができない。止めたいけれど止められない。両手でごしと目を擦っていたら、小さな舌打ちとこちらに近づくやや乱暴な足音。そして、それから、戸惑いがちに背中へと包みこむように腕がまわされた。「…名前」今度は私が目を見開く番だった。それはこの男の口からは聞いたことの無いような、優しくやわらかな声。「ディオ……?」押し付けられた広い胸にじわりじわりと雫が吸い込まれていくのが分かる。きっと私のブラウスと同じようにしみができていることだろう。伝わる鼓動はやや早くて、背中と髪を滑る手はとても優しく、温かい。ディオ、もう一度名前を呼んでみた。返事は無い。濡れた瞳を静かに閉じる。痛みはとうに消えていた。








(…目にごみが入ってただけだよなどと言ったが最後窓からフライアウェイさせられる)




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