特別な日。
友達が0時からメールで沢山祝ってくれた。学校でも沢山祝ってもらった。すごくすごく嬉しかったけど、でも、やっぱり、特別な人に祝ってもらうのはまた別なわけで。その特別な人と会うことすらなく終わってしまった今日の学校に落ち込んでしまうのは仕方ないことだと思う。といってもあの子は今日何の日かということすら知らないんじゃないだろうか。クラスの自己紹介では誕生日言ったけど、なにしろクラス違うし。同じだったとしても覚えてくれていたかどうか自信なんてない。それでも希望は捨てきれず、帰りにSクラスの前なんて通っちゃったりして。馬鹿だなぁ俺なんてぼんやり思っていたら、「え」いた。いたんだ。オレンジ色に染まったSクラスの教室に人が。思わず二度見してしまったけど、でも、誰かなんてすぐに分かってしまって。



「苗字」


こんなことってあるんだ。

思わず名前を口に出してしまったが相手は全く気づかない。俺の声が小さかったわけではなく(静かだったから寧ろ響いてしまった)、苗字が机に突っ伏しているからだと思う。何でこんなところで…何かあったのかな。少しずつうるさくなっていく心臓をおさえてゆっくりと近づいてみれば、「…寝ちゃってる…?」規則正しい寝息が聞こえてきて少しいやかなり吃驚した。学校で寝るような子じゃないと思うんだけど。昨夜遅くまで勉強でもしていたのだろうか。



「苗字」



放っておくわけにもいかないので、かるく名前を呼んでみた。が、全く起きる気配もなくて、どうしようかと少し悩んでから、今度は少しだけ声を大きくして呼んでみる。苗字。二回、三回。なんだか悔しくなって苗字の寝ている前の席に苗字の方を向くように座って、顔を覗き込んでみた。

寝顔。



「っ」



何やらいけないものを見てしまった気がして勢いよく顔をあげた。やばい。やばいやばいやばい。どうしよう。きゅんとした。ぶんぶんと顔を横に振って熱を冷ましても冷め切らない熱。ああもう俺の馬鹿。何だよこれ情けない。一回深呼吸をしてもう一度名前を呼んでみる。「苗字」起きないと先生来て怒られちゃうよ。

…どうやったら起きるんだろう。ふぅと一息ついて頭を捻る。


…起きたら俺がいて吃驚するかな。

それから一緒に帰れたりするのかな。

そしたら少し遠回りして帰りたいな。

沢山話ができるかな。

いっぱい声が聞きたいし。

笑顔もいっぱい見たいな。

でも、もう少しここで一緒にいるのもいいな。

今日…何の日か知ってるかな。

そんな考えが沢山ぐるぐる回ってどんどん増えて回って増えて、なんだか少しだけむず痒くて、でも、とてもあたたかくて、何かが満たされて溢れ出すような、そんな気分。何の日か知らなくてもいい。祝ってもらえなくてもいいや。一緒に過ごせたらそれだけでいい。もう皆帰っちゃったから、ここにいるのは俺と苗字だけ。だから、だから少しだけ…欲張ったっていいよね。もう一度、苗字の顔を覗き込む。今度は反らさない。なんて無防備な寝顔だろう。俺だけのものに、なんてさすがに欲張りすぎかなぁ。でも今この時間は確かに俺だけのものだ。今日誕生日だもんこれくらい許してよ。

ああどうしよう今すごく幸せだ。





「…好きだよ」


呼吸をするのと同じくらいに自然と零れ出た。いつもの自分では考えられないくらい小さな声だった。
きっと未だ夢の中の君には、届かない。




眠る君に秘密の愛を




机の横にかかった可愛くラッピングされた袋が自分宛だと知るまで、あと少し





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音也HappyBirthday!!大遅刻してごめんなさい!
TITLE by 確かに恋だった
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