「…風邪引いた今日休むごめんなさい…送信っと」



ずびずび。げほっげほっ。女子力どこいったんだ私大丈夫か。
そんなことも考えていられないほど頭がんがんする。せっかく今日トキヤと二人で練習だけどこれはしょうがないよね…頑張って寮の外まで来たけどさらに酷くなってきた気がする…うつしても悪いしもう寝よう。寝ればきっと治るはずだ。よし寝よう。明日元気に土下座しよう。

…あーまた部屋まで戻るのつらい…エレベーター遅いはやくのぼってください


「うー…部屋の鍵…あった……はぁ…何でこんな時期に風邪ひくかなぁ…」


かちゃかちゃ鍵を挿して回そうとしたが空回る。あれ。おかしい。どうしたんだろう。
逆だったっけと思って逆に回そうとしたらいきなりドアがあけられて思わず顔面ごっつんこするところだった。「えっ」何であくの。


「どこへ行っていたんです風邪などとどうせまたお腹でも出して寝ていたんでしょう」

「………は」

「…!顔が真っ赤じゃないですか!それで外へ出たんですか!?」

「何この風邪幻覚見える私の部屋にトキヤがいるおかしい」

「馬鹿を言っていないで早く布団に入りなさい!」

「いや、え…」



開いたドアから何故か出てきたトキヤがてきぱきと整えた布団に私をしまい込んでさっと体温計を差し出す。
「はやく脇にはさんでください」この幻覚なんという手際のよさだ感動する。


「鍵開けっ放しでしたよ…そんなことも気づかない状態で何故外へ出たんですか」

「え…あの…」

「無用心にもほどがあります」

「ごめんなさい…………ちがう何でいるの」

「メールを見ました。体調管理はしっかりしてください」

「(メール送ってから数分しかたってないんですけど)」

「練習ができないのは残念ですが仕方ありません」

「う…そこはごめん」

「…」

「ごめんなさい…」

「謝るくらいならはやく治してください」

「…はい…」


申し訳なさ過ぎて…そうだよね練習したかったよねトキヤは。ああ眉間に皺増えてる。


「大体…謝って欲しいのはそこではありません」

「え?」

「…」

「…?」

「風邪を引いたというだけでも心配したというのに来てみれば鍵は開けっ放しで貴方がいないのですから…」

「あ…ごめん」

「あまり心配をかけないでください」

「うん…それも…ごめん」

「分かればいいですよもう二度とこういうことのないようにしてください」

「…はい」


素直に頷けばぼやけた視界の中でトキヤは満足したように微笑んで私の髪を撫でた。なんだろういつもより優しい気がする。いつもだったら鍵開けっ放しにするなんて何を考えてるんですか大体貴方はいつもいつもって説教が始まるパターンなのに。風邪だからかな。
この優しさに少しきゅんとしちゃったのもきっと風邪のせいだろうと思う。そう思ってるのにゆっくりと離れた手が少し寂しくてつい目で追ってしまった。「…」「…そんな目で見ないでください…氷枕作ってきますから貴方はきちんと寝るんですよ」
少しだけ困ったように眉を下げてからもう一度私の髪の毛を撫でて立ち上がった。ああなんだか擽ったい。


「…そこの棚に冷えぴたあるからそれでいいよ」

「分かりました」

「もううつるから帰っていいよ…せっかくレコーディングルームとったんだからさ…トキヤ一人でも行って練習しておいでよ…」


曲はもうほぼ完成に近い。トキヤ一人でも練習にさほど支障はないと思う。


「…貴方がこんな状態では落ち着いて練習もできませんよ」

「そんな――っ冷たい!」

「冷えぴたですからね当然です」


何の言葉もなしにぺたりとおでこへと貼られた冷えぴた。気持ち良いけど冷たい。この扱いも冷たい。さっきの優しかったトキヤどこいったんだ!
だからといってやってもらっている身としては文句を言うわけにもいかずじわじわと効いてくる冷たさにとりあえず目を閉じた。あ、気持ち良い。

少ししてぴぴぴと鳴った体温計にまた目をゆっくりあければトキヤがそれをそっと抜いて確認してくれていた。しかしさらにトキヤの眉間に皺がよったのを見てしまいさらに頭が痛くなった気がした。
「38度9分…ですか」「…う…」「高熱ですが…病院へ行くといえばどうせ暴れるんでしょうし…無理して行くより今日は部屋でゆっくり休んだ方がいいでしょうね」
ぴ、と電源を切って体温計をベッド付近の棚の上に起き、いつの間に持ってきたのかペットボトルのスポーツ飲料をコップへと入れてくれた。


「飲めますか?」

「…ありがとう…」

ごくり。おいしい。やっぱり熱出た時はこれだなぁなんて思いながら空になったコップをトキヤに渡してまた枕に頭を沈めた。
こういう時は寝た方がいいのだろう。きっと寝てしまえばトキヤも出て行くだろうし。…でも、何か寝難い。トキヤがいるからとかでなくこう寝苦しい…服、あ、服だ。


「…」

「どうしました…?辛いんですか?」

「…いや辛いっていうか…制服が寝難くて…」

「制服?…あぁ…そういえば制服のまま放り込んでしまいましたね…気づきませんでしたすみません」

「部屋着にする…」

「動かないでください」

「…」

「…」

「…そこの…棚の三番目です」

「分かりました」

「ごめん…」

「いいですから寝ていてください……これですか?」

「うん」

「……起き上がれますか」

「ん…」


ずしりと重い身体。ぐ、と腕に力を入れてなんとか置きあがろうとするがなんだか力が入らず苦戦していたら背中にトキヤの手が入り、そのままゆっくりと上半身を起こしてくれた。
とりあえず脱がなくちゃとリボンに手をかけたのだが視界がぐらぐらするうえにやはり力が入らない。風邪ってこんなに辛かったっけ。
ゆっくりとリボンをときにかかっていた私に痺れを切らしたのか「失礼します」という言葉が聞こえたと思ったらトキヤが上半身で後ろから私を支えるようにベッドへ座り、私にまわされた手が静かに制服のリボンをといてボタンをはずしていく。
こんなことまでしてくれなくても、と思いつつ腕に力も入らないので脱がされて行く服をどこか他人事のようにぼんやりとした頭で見ていた。「…少し我慢してください。できるだけ見ないようにやりますから」耳元で真剣なトキヤの声が聞こえる。止める気力もないし、トキヤなら大丈夫だろうと、重たい頭でこくりと頷いてトキヤの肩に頭を預け全部トキヤに任せることにした。
むしろこのまま寝れたら幸せな気がする。何か良い匂いするし、背中にトキヤの鼓動が伝わってとても心地良い。
制服の袖が腕を通り、ぱさりと外され、スカートも布団の中で器用にするりと脱がされる。キャミソールと下着のみとなってしまったがもうこれでいいんじゃないかな。直接肌に触れる布団が気持ち良いし。


「…有難う…もういいよトキヤこれで寝る」

「だめです。きちんと着なくては」

「けほっ…も、大丈夫だからトキヤにうつっちゃう」

「うつしてでも治すくらいの気持ちでいてください」

「トキヤにうつすわけにはいかないよ…」


帰ってと言おうとしたところでぐらりと視界が揺れた。
風邪のせいというわけではなく、トキヤが離れようとした私を引き戻したからだと気づいたのはトキヤの腕がしっかりと身体に回されてからだった。


「トキヤ」

「放っておけるはずもありません」

「だ、大丈夫だってば」

「やはり熱いですね…風邪の時は睡眠をとることが一番です。薬はもう飲みましたか?」

「朝飲んだ」

「そうですか。では寝ましょう」

「寝ましょうって」


どういうこと。ごろん、そのままトキヤが後ろにゆっくりと倒れて、私も同時に倒れた。片方の腕は私の頭の下。もう片方の手でさらりと私の髪の毛を撫でてから背中へと周り優しく引き寄せられる。
「近い」「ええ近いですね」「うつる」「うつりません」どこからその自信が来るのか全く理解できないです先生。こうなったら言うこと聞かないのは分かっているのでもう何も言わないことにしよう。うつっても私は知らないよ!


「…でもあの、一応女子なのでこの状態でこんなことされると恥ずかしいというかなんというか」

「私も男子なので非常に辛いところはありますが…それよりも風邪を早く治してもらいたいので」

「…心配も迷惑もかけて本当申し訳無い…」

「そう思うのなら寝て起きて食べて薬飲んで寝てはやくよくなってください」

「うん……トキヤ」

「はい?」

「…治ったら…練習いっぱい頑張ります」

「はい、楽しみにしていますよ」

「…ありがと…」

「おやすみなさい」

「…おやすみ」


優しく頭を撫でられ、瞼を閉じた。
風邪の時は人肌恋しいとは言うけれど確かに一人で寝てた時よりも身体が楽で、安心してる自分がいて、ぎゅ、とトキヤの胸に顔を押し付けて力の入らない手でしがみついた。
ずっと優しく撫でてくれてるから、温かくてふわふわする。頭のがんがんしてたのもなくなった気がする。
トキヤってすごいなぁなんて小学生並の感想を抱きながらそのまま夢の世界へとフェードアウトした。











(うー…)
(おはようございます)
(おはよう…)
(気分はどうですか?)
(ん、大分楽になったよ)
(そうですか……熱は…ほとんど下がってるみたいですね)
(何でおでこではかるの…!)
(手元に体温計がありませんからね)
(しれっと…っていうかいつまで測ってるの…!)
(おや?体温が上がってますが?)
(もう本当勘弁してください)



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