Un sorriso
(ロクアレ[ニルアレ]/バレンタイン)









地上にはたくさんの電波が絶えず飛び交っていて、同時に様々な情報が配信されている。

地上で待機中のアレルヤは、台所でボウルを抱えながらラジオに向き直っていた。ラジオ、と言っても数世紀前に使われていた物ではなく、携帯用末端でも拾えることができる電波のことなのだが。世界のあらゆるニュースや天気、事件が報道されるそれは、ヴェーダから送られてくる情報と比べると曖昧で情報量が少なく、少し遅れていたりする。

しかし、アレルヤはラジオが好きだ。
アレルヤが主として聞いているのはニュースではなく、退屈凌ぎに聞くようなバラエティに富んだ番組が殆どだった。料理やポエムなど、特定の趣味を持った人達が聞くようなそれは、聞いていてとても面白いし、ためになる。


突然軽快な音楽が流れ始めたところで、アレルヤは肩をビクッと跳ねさせた。周りにはアレルヤ以外誰もいないにも関わらず、慌ててボリュームを下げる。

アレルヤが毎月楽しみにしているラジオが始まったのだ。






「今週もやってきました、ニール・ディランディの君を狙い撃ち☆このラジオは俺、ニール・ディランディが皆さんの恋の悩みに武力介入するってやつだ。みんな、この一ヶ月の間元気だったか?」


はい、僕は元気です。ニールさんもお元気そうで。

思わず末端に向かって挨拶してしまい、アレルヤはポッと顔を赤らめた。ニール・ディランディはこの番組のパーソナリティだ。甘い、体の奥に響く低い声と、リスナーを引き付ける明るいトークで、彼は女性のリスナーからかなりの人気がある。ラジオのメインテーマも恋愛相談ということで、リスナーの大半が女性らしいのだが、アレルヤのように男性のファンも多い。

それにも関わらず、このラジオは月に一度しか放送されない。理由はパーソナリティーであるニールの本職が忙しいからだそうだ。(本職は自営業、らしいのだが、本当かどうかは定かではない)そのため、アレルヤは月に一度のこのラジオをとても楽しみにしていた。


「っということで、早速リスナーの皆さんからのお手紙を読んでいきたいと思います。……えーまずは、ラジオネーム"俺がガンダムだ"さん。男性の方だぜ」


ん?何でガンダム?と心の中で突っ込んだのは、アレルヤだけではないだろう。
そのセリフに聞き覚えはあったが、ラジオネームなんて皆それぞれだよね、なんて軽く聞き流した。


「<背を高くするにはどうすればいい?相手より背が低いのは俺のプライドが許さない>ということで……。彼女より背が低いのが嫌だって気持ちはわかるぜ。"ガンダムだ"さんは……16歳、か。まだまだこれからじゃねぇか。男は24まで伸びるって言うし、運動して飯食って寝れば、今に伸びるさ。俺はもう止まっちまったから、気をつけにゃならんがな。まあ骨を丈夫にするって意味で、牛乳とか小魚でカルシウム取ってみると良いかもしれないぜ」


(僕も19歳なら、まだ伸びるのかな?)

180センチを越えるアレルヤの身長だが、正直これ以上は伸びなくてもいい。刹那に聞かれたら怒られちゃうかな、と小さく笑うアレルヤは、手元のボウルの中をゆっくり混ぜ始めた。


「次の方はー…えー…ラジオネーム"僕は人間だ!"さん。男性の方だ。<最近恋人がリンクすることを拒絶するのです。今までそのようなことはなかったのに!どうしてだ、僕は、俺は、私は!!>ってことで…」


言葉の語尾が小さくなるニールに、アレルヤは首を傾げた。言葉を濁すように「あー」だの「うー」だのと言う彼は珍しい。


「…リンクってことは……アレだな、うん。アレだ。……まあ無理矢理繋がろうとしても逆効果かもしれないぜ?女の子は男と違って、心の繋がりを望むのが多いって言うしな。優しく、スマートにしてやるのがベストだ。ここは少し我慢して、相手からお前さんを求めてくれるのを待つのが得策だと思うぜ」


ニールはハハハハハ、と渇いた笑いの後に一つ咳ばらいをすると、声のトーンを戻して続けた。


「次は最後の方だ。今日は珍しく三人とも男性だな……。えー、ラジオネーム"まるちーず"さん」

「えっ!?」


アレルヤは勢いよく立ち上がった。まるちーず?今、まるちーずって言ったよね!?

まるちーず、とはアレルヤが先日送ったものと同じラジオネームだ。まさか、読まれて!?
嬉しさと恥ずかしさで顔を赤らめつつ、アレルヤはボウルの中身を力強く掻き回す。ペチャペチャと音をたてて混ざる中身にハッとしたアレルヤは、落ち着くように自分に言い聞かせると、ニールの言葉を待った。


「<僕には今、好きな人がいます。人と話すことが僕にも優しくしてくれる、凄く面倒見が良い人です。片思いですが、バレンタインにプレゼントをあげたいと思っています。渡す、と決めたのは良いのですが、それから変にドキドキしてまともに顔を見ることができません。どうやってプレゼントをあげたら良いと思いますか?アドバイスお願いします>ってことで」



ドキドキドキドキ……
心臓が馬鹿になったみたいにドキドキ煩くて、耳の奥から離れない。


「片思いか……まあ俺も現在進行形で片思い中なんだが、プレゼントはやっぱり面と向かってあげるべきだと思う。俺ならそうするね。好きな人に振り向いてもらいたいなら、いずれは気持ちを伝える時がくる。ボヤボヤしてたら、他の奴らにもってかれちまうぜ?」

その言葉を聞いた瞬間、アレルヤに衝撃が走った。頭の中に刹那やティエリア、そしてフェルトの顔が次々と浮かぶ。嫌だ、そんなのは絶対に嫌だ。


「嫌なら、勇気出して男見せろよ。その時になれば、ちゃんと言えるはずだ。……とにかく大事なのは笑顔だ。緊張するのはわかるが、顔が強張ってたり背けられると、相手も嫌われてるのかなって思っちまうだろ?だから、ちょっと大袈裟かなってくらい笑ってみせろ。…上手くいったら、また報告してくれよな。俺も頑張ってみるからさ」


しっとりとした音楽が流れ出すのと同時に、ラジオの終了を告げるアナウンスが入る。もうそんなに時間が経っていたなんて。それでは、また来月!なんてニールの一言でラジオは締めくくられた。

次にこの声が聞けるのは来月か、と考えながら、アレルヤは末端の電源を切る。茶色の液体をぼーっと見ながら、先ほどのニールの言葉を思い出していた。




「笑顔、か……」


自分はあの人の前で、上手く笑えているだろうか。

(ニールさん、凄い。彼みたいな人に想われている人は、きっと素敵な人なんだろうな……)



ニールさんも、頑張るって。それなら僕も頑張ってみよう。



「……ロックオン、受けとってくれるといいな」


胸元のボウルを抱え直すと、アレルヤは甘ったるい空気を胸一杯に吸い込んだ。








(刹那、牛乳おいしい?)
(ああ)
(ティエリアは?)
(ヴァーチェのところだ。今日はヴェーダではなく、ヴァーチェに話してみるらしい)
(そっか…戻るといいね、トライアル・システム)
(……ああ)

(アーレルヤっ!……っと刹那?お前さんどうした、そんなに牛乳飲んで)
(アンタには関係ない)
(あの、ロックオン!)
(ん?)
(お帰りなさい。あの、帰って早々すまないけど、僕の部屋に来てくれないかい?)
(…………///っ![なんつー可愛い顔してやがんだ畜生っ])




―――――

遅れましたが、バレンタインです。
ニールさんとロックオンは同一人物です。副業でパーソナリティやるのはちょっと無理そうですが(笑)
もちろん彼が思いを寄せているのはアレルヤです。つまり両思((ry
アレルヤ以外のリスナーは刹那とティエリアです。恋とかそんなの関係ねぇ/(^q^)\



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