えず変化するかたち










あれから、一ヶ月が過ぎた。

ハレルヤとライルが"恋人同士"だということは、付き合い出した次の日には学校全体に知れわたっていた。最初こそ驚かれたり嫉妬されたりしたものの、なんだかんだで今となっては周囲に認識されている。

いつもみたく"どうせ一週間も続かないだろう"と踏んでいた女子生徒達には大きな誤算となったようだが、相手が相手ということもあり、口も手も出せないでいるのが現状だろう。



ハレルヤ・ハプティズム、正確に言えばアレルヤもだが、入学当初彼女達は美人双子としてかなり騒がれた。大人しく穏やかなタイプのアレルヤと、クールで狂暴な一面を持つハレルヤ。

そんな双子に好意を抱く者は少なくなかったのだが、アレルヤはハレルヤが完全にガードしており、ハレルヤを落とそうにも彼女は男はおろかアレルヤ以外の人間にすら興味がないようで。

一度ハレルヤを力ずくで……なんて男が居たらしいが、その男はハレルヤに見事ぶん殴られたそうな。それ以降ハレルヤに告白しようなんて命知らずな男は現れず、狂暴なハレルヤに女子達は近づこうとはしなかった。


そんなハレルヤが男と付き合うようになったのだ。周囲が興味を持つのも当然と言えば当然かもしれない。



「ハレルヤ!一緒に飯食おうぜ」
「却下。俺はアレルヤと食うんだよ」


相変わらずハレルヤはアレルヤにべったりで、ライルの誘いを断ることもしばしば。(しばしばというより、いつもと言った方が妥当だろうが)
ライルはそんな彼女にわざとらしく溜息をついてみるものの、大して気にしない様子で自分の教室に戻った。毎日誘う昼ご飯だが、毎回のように断られているので慣れてしまったのだろう。

教室に戻ると、ライルの席には友人のヨハンが座っていて、苦笑いしつつも片手を上げていた。ヨハンはライルの友人の中では一番の常識人で面倒見もよく、他の友人なら顔をしかめるような内容の相談にも真摯にのってくれる。

そしてライルとハレルヤの"恋人の関係"を知っている、ただ一人の人でもあった。


「しかし、今でもまだ信じられない。……よくハレルヤが了解したな。てっきり断られたかと思ったのに」
「簡単なもんさ、女なんて」
「お前……いつか刺されるぞ」


しれっと答えるライルに向かって、ヨハンは大きな溜息をついた。そんなヨハンを横目で軽く見ると、ライルは小さく笑う。
やれやれ、と言った様子のヨハンだが、まさかライルがあんな卑劣な手を使ったとは思いもしないだろう。もしアレルヤを脅しに使った、なんて知ったら、女癖の悪さや多少の非行なら眼をつむってくれるヨハンでもさすがに怒るはずだ。

やっぱり真面目なんだよな、と心の中で呟きつつ、ライルはアレルヤと楽しげに昼食を食べるハレルヤの姿を頭に浮かべようとした、が、やめた。

"楽しげに"なんて言ってみたが、今思うとハレルヤが楽しそうにしているところを、ライルは今までに見たことがあるだろうか。ライルだけじゃない、恐らく、ハレルヤが心から楽しそうな顔を見たことがある人は、アレルヤくらいだろう。

あの無表情と強気な顔が、ライルの前で笑顔になることが果たしてあるのだろうか。そんな事を考えながらもう一度思い浮かべたハレルヤは、やはりいつも通りの強気な表情だった。







――――――――







「ハレルヤー、一緒に帰ろうぜ」
「却下。バイトあるっつっただろ」


淡々と帰る支度を始めるハレルヤに声をかけてみるものの、昼間と同様その視線がライルを捕らえる事はない。せっかく、というかわざわざ迎えに来てやったのに、その態度はないだろう。
ライルは思わず鞄と机とを行ったり来たりする手を掴むが、途端に狼が羊に襲いかかろうとしているような、鋭い視線が飛ばされた。

(本当、愛想がないというかなんというか……)

面白いが、趣味じゃない。
無愛想な女は嫌われるぜ、なんて思いながら、ライルは彼氏を演じ続ける。


「お前なぁ、彼氏とバイトとどっちとるんだよ」
「お前は女か」


少し大袈裟に騒ぐライルに、残っていたクラスの女子がハレルヤを見た。隣にいるライルが彼女達に小さく手を振れば、途端に黄色い歓声が沸き上がる。何人かは見たことがある顔だが、名前は知らない。知りたくもないが。

そんなライルを冷めた目で見るハレルヤは、捕まれていた手を乱暴に振り払うと、スカートでその部分をわざとらしく拭った。
まるで汚い物に触られたとでも言うような仕種にカチンときたライルだが、彼より早く反応したのは回りの女子生徒達だった。
彼女達の視線からなにが言いたいのかは理解できる。大方、"あんなことするなんて"とか思っているのだろう。

状況を把握したのか(もしくは最初から理解していたのか)、ハレルヤは明らかに不機嫌を表しながらもライルの方へ一歩分だけ近づいた。


「な、ハレルヤ。バイト先まで一緒に行こう?」
「……しゃーねぇな」


ぶっきらぼうに答えつつも手を差し出すハレルヤに、ライルは思わず噴き出した。俗に言うツンデレとはこのことなのだろうか、と思いつつ、ライルはハレルヤの手に自分のそれを重ねた。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -