その時まで、
(ティエリア誕生日文/ティエリア+リジェネ)

※2期終了〜劇場版までの間
※ヴェーダ内部での二人
※捏造・妄想多々あり










「……退屈だな」


真っ直ぐに前を見据えたまま、ティエリア・アーデは呟いた。本当は口に出す気などはかけらもなかったのだが、あまりの退屈さに無意識に発してしまったようだ。
無表情で淡々としたその口調は彼の雰囲気を更に厳しく見せ、彼の燃えるように赤い瞳も、引き締められた唇も、全てがそれを際立たせていた。


「そんなこと言って、珍しいじゃないか。ティエリアが暇ってことは、よっぽど世界が平和ってことさ」

「リジェネ・レジェッタ……そう言う君も、普段に増して退屈しているようだが?」


ティエリアの前では彼と似通った(似通ったではなく全く同じなのだが)容姿の青年がティエリアとは正反対に、ニコニコしながら頬杖をついている。感情豊かな表情と、ゆったりとした口ぶり。同じ顔なのに表情や態度でこれほどまで違って見えるのが不思議だ。

彼、リジェネ・レジェッタは、この場所が好きだった。ヴェーダの内部、正確に言えばヴェーダそのものの中に、リジェネとティエリアはいた。来るべき対話の日まで、ヴェーダと共に世界を見つめるために。

リボンズ・アルマークからヴェーダを奪還して早数ヶ月。新しい政治体勢と意識により、世界は一つになりかけていた。


「そんなことはないさ。君自身がそうだから僕がそう見えるんだよ。あーあ、何か面白い事はないのかな」

「世界に完全な平和が来る時はないだろうが……今の状態も、悪くないだろ」

「来るべき対話の日まで、僕等はこのまま、のんびりやってれば良いってことかな」


ふあー、と大きな欠伸をして、リジェネは仰向けに寝転んだ。ヴェーダの光りが鈍く輝いて、四方のパネルを赤く波打っている。この光が世界を動かしていると考えると、なんて簡単なんだろうと思う。同時にこのシステムで世界を動かしてきたことに、ソレスタルビーイングの創設者でもあるイオリアには、本当に驚かされる。

その光をぼーっと眺めて、どれくらいたっただろうか。不意に口を開いたリジェネは、光に視線を固定したまま問い掛けた。


「そういえば、他のマイスターはどうしているのかな?ねぇティエリア、気にならない?」


突然の問いに若干驚きつつも、ティエリアは同僚達の姿を想像して頬をちょっとだけ緩めた。

アレルヤはマリーとの巡礼の旅。ライルと刹那はきっと、ソレスタルビーイングでの活動を続けているだろう。他のクルーも同様に、小さな火種を消すために介入を続けるはずた。ラッセにフェルト、イアンにミレイナそしてスメラギ。あれからまだ少ししか経っていないのに、やけに遠い記憶に感じる。以前ティエリアがトレミーにいた時と変わらず、元気に騒がしくやっているだろうか。


「……ヴァーダを使わずとも、だいたいの想像はできる」

「そんなこと言って、彼らの事を調べたら会いくなるから使わないんでしょ」

「冗談も休み休みに……いや、貴様は冗談の塊だったな」

「酷いなー。でも退屈なら、丁度良いからデータバンクを覗けば良いじゃない。見きれないくらいに、なんでも見つかるよ」


未来以外はね、といつもの調子でサラリと答えたリジェネはスッと目を細めると、視界全体に広がる機械に向かって微笑みかけた。

しかし突然あっ、と声をあげたリジェネは、上半身を起こしてティエリアを見る。悪戯っ子のようなニヤニヤと感情を隠さないリジェネの笑顔は、ティエリアの神経を逆なでする物以外の何物でもない。そんなティエリアを知ってか知らずか、リジェネは無邪気といい言葉がピッタリ合うような口調と態度でティエリアの髪が動く程度に肩を揺する。
明かに嫌そうに眉をひそめるティエリアを、完全にスルーして。


「そうそうティエリア。この間ヴェーダから面白い情報を見つけたんだ。12月9日……今日は君の誕生日らしいじゃないか」

「なんだと?」


リジェネの言葉に、彼の眉間のシワが一層深くなる。
このままでは跡が付くのではないかと思うほど眉を寄せるティエリアに、リジェネは得意げに続けた。


「ヴァーダの情報が正しければ、今日12月9日は君の誕生日だよ。初めて見つけた時はビックリしたけど、なんか納得できる気がするんだ。ほら、君って冬の塊みたいじゃない?」


主に視線と態度が、と付け加えたリジェネを一睨みすると、ティエリアは目と目の間を軽く押した。それは彼がかつて眼鏡をかけていた時のブリッジを押し上げる動作であり、彼の癖でもある。実際、彼は眼鏡をかけていない時でもよくその動作をしていた。


「誕生日……ヴェーダにそんな情報は記載されていないはずだ。そもそも、いつを基準に誕生日だと?前の体が作られた時か、遺伝子そのものが作られた時か」


少なくとも、以前ティエリアがヴェーダのデータバンクを閲覧した時には、そんな情報は記載されていなかったはずだ。それにマイスターの個人情報はSランクの秘匿義務がある。そうそう簡単に閲覧できるわけではない。例え彼がイノベイドだとしても、だ。


「そんな事、僕に聞かれても知らないよ、載っていたんだもの。まあ、ヴェーダの情報だから、間違いはないんじゃないのかな?」

「フン……」


ヴェーダの情報に間違いなどありえない。ティエリアが、常日頃から確信していることの一つだ。その揺らぎない確信のため、気にくわないがそれを認めざるをえなかった。

しかし。


「僕の誕生日なら、貴様も誕生日じゃないのか?一応、元は同じらしいからな」


ティエリアの誕生日が12月9日だとしたら、リジェネの誕生日もその日なのではないだろうか。
そんな考えが頭を過ぎり、興味と好奇心が少量ながら沸き上がった。


「そうかもね。でも塩基配列パターンが一緒だからって、造られた日が同じわけでもなさそうだし。まあ、どうでも良いけど」


その解答に先ほど感じた好奇心は完全に消え去り、またしても眉をひそめる。そんなティエリアを背に、リジェネは再びゴロンと寝転んだ。そんなリジェネの態度にムッとしつつも、この数ヶ月で彼の性格を理解したティエリアは呆れたように小さな溜息をつく。リジェネと共に活動していたイノベイド達(菫色の髪をした彼とリボンズくらいしか知らないが)の苦労を思いながら。


「面白いと言ったりどうでもいいと言ったり……貴様は本当に何を考えているんだ」

「特に何も。なんでも適当が一番さ」

「貴様の場合、適当ではない。適度以前に、言動が明かに基準を下回っている」


横目でリジェネを見てみるが、特に気にする様子もない。どれ程非難されようが、恐らく彼は気にも留めないだろう。ただ、面倒くさそうではあるのだが。
そのせいか、リジェネはちょっとだけ唇を尖らせて頭を掻いた。


「もう…いちいち細かいよ。本当に君は気真面目だ。だから教官とか言われるんだよ」


それは、以前双子の狙撃手に言われた言葉だ。一度はナドレを曝したときのロックオンに、もう一度は2代目ロックオンことライル・ディランディがソレスタルビーイングに来たばかりの頃の話。


「教官と言ったのはライル・ディランディだけだ」

「とにかく、君はもう少し柔軟性を付けた方が良い。僕みたいにね」


「誰が……貴様のようになど、考えたくもない。まずそんな恰好は考えられない。少しは整えたらどうだ」


見ろ、この髪の毛の差を、と自分の髪とリジェネの髪を見比べるティエリアに、リジェネは珍しく困ったように眉を下げた。そんな、今更髪をどうこうしろなんてつもりはサラサラなかったのだが、とにかく何か文句をつけてやりたい気分だった。


「……髪は仕方ないじゃないか、髪だけは癖がついちゃうんだから」


確かに、ストレートなティエリアの髪に対してリジェネの髪はクルクルと癖がついている。二人の容姿で異なっているのは、この髪の毛だけだろう。カールした一房を指で摘んで引っ張るが、ウネウネした紫がストレートになることはなかった。だからと言って、せっせと髪をとかす気などは毛頭ないし、リジェネ自身そんな性格ではない。


「髪だけではなくて、髪にも癖が出ている、だろう」


お返しと言わんばかりに皮肉っぽく口角をあげたティエリアに、リジェネは一拍遅れて声をあげて笑った。あまりに笑うものだから、ゴホゴホと咳込んでしまう程に。


「アハハハ、ハー…ティエリア、君もたまには上手いことを言うじゃないか」

「茶化さないでほしい」


そのままフイッと背を向けたティエリアの名前を、目尻の涙を拭いながらリジェネが小さく呼んだ。微動だにしないティエリアに、リジェネは口元に孤を描いたまま笑ってみせる。

(全く、気位が高いというかなんというか)

もっと楽に生きれば良いのに、と思う。わざわざ自分で全て背負わなくても、手伝ってくれる仲間は大勢いるはずだ。今日だって、ティエリアがトレミーにいたとすれば全員で祝ってくれただろう。

自分の場合はどうだろうか。
リボンズはそもそも誕生日に興味がなさそうだし、ヒリングはケーキのことばかり考えていそうだ。ブリングやデヴァイン、リヴァイヴ辺りは律儀に祝ってくれるだろうが。戦火に散った仲間を思い出しながら、リジェネはティエリアに囁いた。





「誕生日、おめでとう」

「……なんだ、突然。貴様らしくもない。また何かくだらない事を考えている訳ではないだろうな?」

「違うよ。ただ……」


紫の後ろ姿から、波のように赤く光るパネルに視線を移して、リジェネは口を閉じる。
ただ、祝ってあげたかった。いや、彼を祝う事で自分を祝いたかった。生まれたことに理由があることを確認したかった。

ティエリアに視線を戻したリジェネだが、彼はやはり背を向けたままだ。やっぱり、素直じゃない。


「ただ、ちゃんと言っておきたかったんだ」

「…訳がわからないやつだ。……僕は休ませてもらう。貴様の相手はどうも疲れるのでな」

「アハハ、それは大変だね。それじゃあお休み、ティエリア。良い夢を」


結局最後まで振り返らないまま、ティエリアは目を閉じる。そうだ、最初からこうしてしまえば良かったんだ。退屈ならば、眠れば良い。次に目が覚めたら、来るべき対話の日になっているかもしれない。


(誕生日、か……)


考えもしなかった、自分の誕生日。漸くわかった、生まれた理由。たまにはセンチメンタルなのも悪くないだろう。
目を開ければヘラヘラした笑顔を貼付けているだろう同じ遺伝子と同じ運命を持つ男に、ティエリアは薄く笑いかけた。






HAPPY BIRTHDAY,僕の分身

その時まで、お休み





―――――

初のイノベ登場。リジェネは好きキャラの一人なので、今回出せて嬉しいです。
ファンの中では今日がティエリアの誕生日らしいですが、リジェネはどうなのかと思いまして^^;
最後になったけどティエリア、誕生日おめでとう)^^(



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