温かい心音
(ハレ+子アレ/ライハレ/ハロウィン)

・ライハレ←デレルヤ
・子アレルヤ

注意!





「ハレルヤぁ…」

「あぁ?」


アレルヤは、リビングの火燵で背中を丸めていたハレルヤに、恐る恐る声をかける。
恐る恐るといっても、決してハレルヤが怖いわけではない。彼は返事こそぶっきらぼうだが、その声色はいつも穏やかだ。

太陽の色と曇り空の色をしたハレルヤの鋭い瞳が、アレルヤを真っ直ぐに見つめ返した。いつもはそれに笑い返し、ハレルヤの素晴らしい腹筋にタックルをかますアレルヤなのだが、今はそうもいかない。
アレルヤはハレルヤにお菓子を貰うため、ライルに教わった魔法の呪文を唱える事で頭がいっぱいだったから。


そんなアレルヤに、ハレルヤは気付かれない程度に目を細める。

自分と目を合わせようとせず、指をせわしなく動かしている。これはアレルヤが何かを伝えたい時に出る癖だ。アレルヤが生まれた時からずっと側にいるハレルヤには、そんな小さな事でも容易に理解できた。


「ンだよ、言いたい事あるなら言えって」

「あの、えっと…。あの、ねぇ……と、とりっく……・お、あ・とりーと…!!」


キュッと目を閉じて震えるアレルヤに、ハレルヤは小さく溜息をつく。
……こんな時じゃなくても、アレルヤが望めばいくらでも欲しいだけ買ってやれたらいいのに。
ハレルヤは、自分の稼ぎが情けねぇぜ、と心の中で呟いた。


「………イタズラされんのは御免だな」


寒い寒いと背中を丸めたまま火燵を出たハレルヤは、家から持ってきた鞄をごそごそと漁り始める。
目的の物を鞄の隅に発見すると、アレルヤに向かって手招きをした。

ラッピングされたそれらは、丁度アレルヤの手の平に収まるサイズだ。中身はただのチョコレートとキャンディーとビスケット。
特別高いわけでも、美味しいわけでもない、そこらのコンビニやスーパーで売っているような物だ。


「……ありがとう!!」


それを小さな手にちょこんと乗せてやると、ハレルヤと揃いの銀の瞳が輝いた。
アレルヤは、こんな簡単なお菓子でさえ嬉しそうに受け取ってくれる。エヘヘと子供らしい無垢な笑顔を向けられるだけで、ハレルヤの心はスッと軽くなって、暖かくなるのだ。


「……おら、口元にチョコついてんだろうが。歯磨きだけはちゃんとしろよ?……ライルとニールからはっと、もう貰ったんだな?」


小さな唇のすぐ隣に付いたチョコレートを舐めとってやったハレルヤに、アレルヤはニッコリと微笑み返した。

………甘い。アレルヤの笑顔も、久々に口にしたチョコレートも。

ハレルヤは、やっぱり寒いなどと文句を言いつつ火燵に潜り込み、膝にアレルヤを乗せて抱き寄せた。ガキは体温高くて気持ちいぜ、とゆっくり瞼を閉じる様子は、まるで猫のようだ。

ちなみにアレルヤからすれば、彼の低い体温はとても心地が良い。
ハレルヤの冷たい指先が触れるとビックリはするものの、その優しさを含んだ指の動きと大きな手が、アレルヤは大好きだ。


「ライルから沢山貰ったよ!!ほら、見て見て!!」


自分の身長くらいある大きな袋を満足げに広げ、見て見てとハレルヤの体を揺する。閉じていたハレルヤの瞳がそれを映し出すと同時に、先程貰ったお菓子と一緒にして胸に抱えなおした。
こんなに喜んでくれるなら、ハロウィンも捨てたもんじゃない。


「ちゃんとお礼したか?」

「お礼したよ!!ハレルヤも、ありがとう。……あっ…」

「あぁ?どうかしたかよ?」

「僕……あの、みんなにお礼…」


お礼?
ばつが悪そうに目を伏せるアレルヤだが、お礼とはなんのことだろうか。ハロウィンのお菓子のお礼の事を言っているなら、それはアレルヤが気にすべきことではない。


「菓子のことか?なら気にすんな、ハロウィンは特別だ。ガキがそんな事まで気にすんじゃねーよ。……今日はおとなしく、腹一杯菓子食ってろ」

「うん……」

「ま、ガキの特権ってヤツだな」


アレルヤは、そう言ってニヤリと笑うハレルヤの顔を覗き込んだ。
パチパチと瞬きを繰り返す大きな瞳には、不安と安堵の色が入り交じっている。
まだどこか納得していないようだが、それもアレルヤらしい。


「ハレルヤは?ハレルヤは小さい時、ハロウィンやった?」


自分がアレルヤくらいの時は、はたしてハロウィンをやっただろうか。
遥か昔の事のように思える幼少時代。そんなに遠くはないはずなのに、ハレルヤにはそれがよく思い出せなかった。


「……俺は甘いモン嫌いだから良いんだよ」


適当な返事をしてみたものの、やはりアレルヤにはわかるようだ。明らかに不審な目でハレルヤを見ている。





「ハレルヤには特別なハロウィンがあるんだから、アレルヤは気にしなくて良いんだぞ」


いきなり現れたライルが、ハレルヤの肩に顎を乗せた。
紅茶とプリンを乗せた盆を火燵に置くが、既にアレルヤの目はプリンに釘づけだ。


「……っ前は黙ってろ」

「ぐふっ」


ハレルヤがそのままの態勢で肘を思い切り後ろに押すと、カエルが潰れたような音が耳元で聞こえる。茶髪の彼は鳩尾を押さながらも笑顔を保ち、アレルヤに向かって微笑みかけた。


「うっ……。アレルヤ、兄さんところ行ってお菓子貰ってきな。その後、皆でプリン食べようぜ。腹減っちまった」

「うん……!!ハレルヤ、ライルも、ありがとう!!」


何もかもを振り切る勢いで、アレルヤはニ階にあるニールの部屋へと駆け出した。彼の頭にはプリンのことしかないに違いない。それに、今頃はハレルヤにしめられたニールがしょぼくれているはずだ。

兄さんを呼びに行く手間が省けたぜと笑うライルだが、ただ前を見つめるハレルヤに言葉を詰まらせた。プリンを見ているのかと思ったが、ハレルヤは甘い物が苦手だということを、ライルは知っている。


シンと静まるリビングで、ハレルヤとライルの呼吸の音と、時計の音だけがリアルに響く。ハレルヤを脚の間に抱き抱えるように座りなおしたライルは、深緑の髪に顔を埋めるとすっかり赤くなった耳をカジカジと噛んだ。

ビクッと震えるハレルヤに胸を高鳴らせつつ、腕をまわしてシッカリと抱きしめる。ハレルヤは自分の物だと言わんばかりに腕に力をこめる姿は、先程のお菓子を持ったアレルヤにそっくりだ。


「………テメェ、アレルヤの前であんな事言うんじゃねーよ。あとくっつくな、うぜぇ」

「良いじゃないか、本当のことだし。何も隠すことじゃない」


普段からツンケンした彼は、弟にライルとの関係がばれる事を嫌がっている。ライルの言う通り、決して隠しているわけではないのだが。
それが、ライルは気に食わない。自分と付き合っている事を知られたくないという気持ちが、ライルにはどうしても理解できなかった。

そのまま耳の後ろに鼻を擦りつけるライルに、ハレルヤは無理矢理体を反転させると、茶色の頭を押しのけた。


「だから、くっつくな!暑苦しいんだよボケが」

「まあまあ、ハレルヤは寒がりなんだから丁度いいだろ。俺、体温高いし」


暴れるハレルヤを制して、ゆっくり胸に引き寄せてみる。小さく抵抗するハレルヤだが、言うほど嫌がってはないようだ。


「おい、アレルヤ達が来るから…!」

「来ねぇよ。そんなに恥ずかしがらなくてもいい。普通なんだからさ」


頬に当たったライルの胸は広くて固くて、とても温かかった。
その温かさが頬に移り、ハレルヤの体全体を温めてくれるような気がして。


「たまには……悪く、ねぇ…」


初めて、背中にまわされた腕に応えてみた。ドキドキ煩いこの音は、ライルのものか、ハレルヤのものかはわからないが、それがとても心地良い。

チュッと額から聞こえたリップ音と共に、ハレルヤは瞳を閉じた。





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