女の子の時間
(ニルアレ/♀化)






「ニールってばまたお菓子ばっかり食べて……。栄養が偏っちゃうよ?」

アレルヤは細い腰に手を置いて、床に寝転ぶニールに肩を竦めた。
彼女はいつもこうだ。毎日アレルヤが掃除しているにも関わらず、ニールの周りにはスナック菓子の空や丸められた包装紙が転がっている。

アレルヤとて女の子なのだから、甘いお菓子が好きな事はわからなくもない。実際、アレルヤも甘い物は大好きだ。
しかし、こんなに沢山の量を毎日食べ続けていれば体に毒だ。
最近のお菓子は保存料や着色料も多いし、カロリーも高い。本当に、太らないのが不思議で仕方ない。


「アレルヤか……。どうだ、お前さんも一本」


笑顔でお菓子を勧めるニールに、アレルヤは眉をひそめた。口の周りにお菓子のカスを付けモゴモゴ口を動かしているニールは、そんなアレルヤに首を傾げつつも新たなお菓子の封をきる。


「もう、ニールのばかっ!僕がお菓子食べないようにしてるの知ってるくせに!……!?」


先程開けた袋からポップコーンを一つ取り出し、アレルヤの口に放り込む。驚きつつも口を動かすアレルヤに向かって、ニールはニッコリと微笑んだ。
よっこらせ、と見た目に似合わない掛け声と共に立ち上がったニールは、立ちすくむアレルヤを背後から抱きしめる。


「ダイエットなんてする必要ねぇって。……どうせ此処にしかつかないんだからさ」


アレルヤの大きな胸を下から持ち上げるように掴むと、その温かさと感触を確かめてみた。
手から溢れんばかりのボリュームのそれは、柔らかくてとても気持ちが良い。気のせいか、前触った時よりも大きくなっている気がする。

腰や脚など、全体的に体は細いのに、何故か胸にだけ脂肪が付いてしまうらしいのだが。


「やだやだ、離してくれ!」


人並みより少し小ぶりなニールにとって、羨ましいと思うアレルヤの胸を、本人はそう思わないらしい。
普段から背中は丸め気味だし、胸の話は絶対に出さない。誰かが話していても自分は入らず、さりげなくその場から逃げ出す徹底ぶりだ。

結局、成長し過ぎたそれはアレルヤ自身の大きなコンプレックスでしかないらしい。

……それを作った原因の一つに、ニールが含まれるのだが。



「甘い物食べても食べなくても、俺と付き合ってる限りは大きくなるぜ?……良いじゃないか、俺はアレルヤのここ好きだぜ。なぁ、一緒にお菓子食べよう?」

「………うん」


ニールが耳元で優しく囁くだけで、アレルヤは顔を真っ赤に染めて頷いた。
二人で寝そべりながらお菓子を食べて、笑いあう。甘いお菓子よりも更に甘い、二人だけの時間が過ぎていく。気付けば、床いっぱいに転がっていたお菓子も残り少なくなっていた。


「ほら、アレルヤ。苺のだ」

「最後だもの、ニールが食べてよ」


細長い、棒状のお菓子はアレルヤのお気に入りの一つだ。苺味のチョコレートがコーティングされているそれは、大人から子供まで大人気でお菓子の定番商品と言っても過言ではない。


チョコが付いていない方を口に含んだニールは、少し唇を尖らせてアレルヤを見る。


「ん」


そのままそれを上下に揺するニールに、アレルヤは首を傾げた。

そんなアレルヤに苦笑いしつつ、顔をズイッと近づける。ようやくその意味を理解したのか、またもや顔を真っ赤に染めたアレルヤは、面白い程に動揺していて視線を四方に走らせた。


「ダメだよ、ニール。そんな、ダメ、ダメダメダメ」

「………アレルヤぁ…」


ダメしか言わないアレルヤに、ニールの碧い瞳の輪郭がぼやけ始めた。……もちろん、これも彼女の作戦なのだが。その証拠に、お菓子はシッカリと口にくわえられたままだ。


「全く、仕方ないなあ……」


潤んだ瞳で見つめるニールに耐え切れなかったのだろう。アレルヤは渋々といった様子で、ニールがくわえたお菓子のチョコレートがコーティングされている側を口に含んだ。
途端に香る苺の香りと、舌の上を滑る酸味の効いた甘味。

少し視線をあげれば、嬉しそうに微笑むニールがいる。
ポリポリと一定のリズムで口を進めるニールに、アレルヤは頬が上気するのを感じた。こんなに綺麗な顔に至近距離で見つめられたら、誰でも頬を染めるに違いない。


「ん…」



ポリポリポリポリ……

そんなことを考えている間にも二人の顔はどんどん近づき、唇が触れ合う寸前でニールは動きを止める。

そして彼女の目から碧が消え、アレルヤの瞳には細かく震える長い睫毛が映っていた。

これは、自分が最後の一口を食べろと言うことなのだろうか。
閉じられたままのニールの瞳が開くことはなく、二人はとても微妙な距離を保っている。

どちらかが動かなければ、ずっとこの状態が続くだろう。

アレルヤは、意を決したように上下の歯に力を込めた。






ポキッ




「へ……?」


「ご馳走様でした。ニール、最後はやっぱり半分こね」



お互いの唇まであと数ミリの所で、細い棒はポッキリと折れてしまった。いや、アレルヤによって折られたと言う方が正しいだろう。

エヘッと笑うアレルヤに、ニールは呆然と立ちすくんでいる。
彼女の唇からは、お菓子の端が5ミリ程覗いていた。

徐々に遠退く唇に、ニールは眉を下げる。普通、恋人同士であそこまでいったら、キスするのが一般的ではないだろうか。少なくとも、ニールの中では常識というか、アレルヤにして欲しかったというのが本音だ。こんなことしなくても、普通にチューしようぜと言えば済む話なのだが。

ニールは溜息をつきモゴモゴ口を動かした。ちょっと口を尖らせてアレルヤから目を反らす。

俯き気味に視線を反らす彼女は珍しく拗ねてしまったようだ。
アレルヤに背中を向けると、床に頬を擦りつけ、胎児の如く背中を丸くする。後ろからアレルヤの気配を感じたが、あえて気付かないフリをした。

『もう、チューしてくんなきゃ話してやんねぇよ』

あからさまなその態度に、アレルヤはニコニコしたままニールの後ろ姿を観察し続けた。
ニールもニールで、首を少しだけ動かしてチラチラとアレルヤの様子を伺っていたのは紛れも無い事実だ。


………その後、そんなニールの姿に耐え切れず、アレルヤが彼女を抱きしめるまでそんなに時間はかからなかったそうだ。







―――――

ポッキーの日にアップしようとしていた百合百合しいニルアレです^^;
とりあえず、甘えた感じのニールさんが書きたかったのです←


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