Moon struck (ニルアレ/学パロ/鬱ルヤ/ブラコンハレ/アレ目線) 昔から、僕の双子の弟であるハレルヤは人気者だった。僕なんかと違って、男らしくて、頼もしくて、カッコイイ。いつも輪の中心には彼が居て、一人でいた事なんて見たことがなかった。いつも隅で小さくなって、ハレルヤの後ろに隠れている自分とは……僕なんかとは、大違い。 小さい頃の友人も、僕が先に仲良くなった人達も、ハレルヤの事を知ると誰もが僕に見向きもしなくなる。 彼は誰からも好かれて、誰からも信頼されて、誰からも愛された。 同じ顔なのに正反対の性格。 同じ声なのに正反対の話し方。 全て同じはずなのに、同じ血が流れてるのに、こんなにも違う。 どうして僕は彼じゃなくて、彼は僕じゃないの? いや、僕は彼で彼は僕だ 違う、僕は彼じゃない いや、僕は僕だ 違う、僕は僕じゃない 違う違う違う違う違う違う!!!! …………僕は……誰…? 「……ーッ!!…ぁ、あ…ふっ……」 暫く見なかった夢を、久しぶりに見た。見た、と言ってもどんな夢なのか……実際にはよく覚えていない。 でも、嫌な夢である事だけはわかっている。この、腹の底で感じるものは、昔と変わっていない。 「ん、……ぁ゛」 「……、ハレルヤ」 ふと隣を見ると、割れたお腹を出して眠るハレルヤがいた。 部屋もベッドも別々にあるはずなのに、気がつけばいつも僕のベッドに潜り込んでいる。 前に一度『一人だと寂しいのかい?』と聞いてみたけど、『そんなんじゃねぇよ!』って叩かれちゃった。ハレルヤってば酷いよね。 ちょっとの振動では起きないとわかっていても、ハレルヤを起こさないように横目で時計を見る。 6時を少し回ったくらいだ。一応アラームは6時30分にかけているけど、その音を聞いた事は果たして何度あるだろうか。 とりあえず、お弁当を作らないと。ハレルヤは好き嫌いがないから、献立を考えるのも凄く楽だ。 でもその前に、ハレルヤが遅刻しないように1時間後にアラームをセットし直しておかないとね。 「あ!見て見て、ハレルヤ君だよ!」 「ハレルヤくん、おはよう」 「カッコイー……」 「この前のテスト、学年2位らしいぜ?」 「ハレルヤ君、昨日の続きだけど…」 登校時。 ハレルヤが歩けば、10人中9人は振り返る。 ハレルヤが口を開けば、10人中9人は耳をすます。 ハレルヤが笑えば10人中9人が笑って、ハレルヤが動けば10人中9人は目で追った。 登校時でなくても、男子からも女子からも、年下からも年上からも同級生からも、ハレルヤはとにかく人気がある。群れることが嫌いなハレルヤだが、彼の周りには自然と人が集まってきた。 校門前でこんな感じだ。 校内、教室と入って行けばどうなるかは目に見えている。彼女または彼達は、隣に僕が居るのなんて気づいてないかのようにハレルヤハレルヤと囃し立てた。 僕に挨拶がないのも、放置されるのも嫌ではないし、気にしない。そう、気にしない。 「アレルヤ、おはようさん!……ハレルヤも、はよ」 「あ、ニール君……。おはようございます」 ただ一人、ニール君だけは違う。彼はハレルヤと同じクラスの人で、ハレルヤのついでに僕にも挨拶をしてくれる。 ニール君は簡単に言えばハレルヤみたいな人だ。ハレルヤより愛想がよくて、人付き合いが上手くて、よく笑う。ぶっきらぼうで無口なハレルヤと違って親しみやすいのだろう、ニール君はハレルヤ以上に人気者だ。 彼は本当に優しい。 廊下で会えば気さくに話しかけてくれるし、何かと気にかけてくれる。教室に遊びに来てくれる時だってある。 そう、彼は凄く優しいんだ。 でも、それも僕に対してじゃないことはわかっていた。 ……ハレルヤと仲良くしたくて、僕に近づいて来る人は沢山いる。そもそも、当たり前だが彼は僕だけじゃなくて皆に優しいし、差別とかは嫌いな人だ。 ハレルヤとの関係を悪くしないためだろう、兄である僕にまで気を遣ってくれる。 「なーなーアレルヤ、今日も昼飯一緒に食おうぜ!……な?」 「……良いですよ。それじゃ、何時もの所で」 だけど、そんなの全部わかっているけど。 だけど、この胸の痛みはなに? 僕はハレルヤと皆を繋ぐ橋の一つのようなものだけど、でも、そうだとわかっていても心のどこかでは期待しているんだ。 彼は僕のことを見てくれるって。 彼は僕自身と話してくれるんだって。 そんな有りもしない事を考える自分が可笑しくて、思わず笑ってしまった。 なんだよ、良いことでもあったか?と笑うニール君の腕が肩にまわる。 力強いその腕に引き寄せられるより早く、ハレルヤの大きな手が僕の手首を掴んだ。痛い、本気で掴んでいるに違いない。 肩に回された重みが消えると同時に、体を前に引っ張られた。気がつけば僕は何故か不機嫌なハレルヤに手を引かれながら、校門をくぐっていた。 午前の授業の終わりを告げる鐘が鳴ったと同時に、教室中から張り詰めた空気が消え去った。 友人とご飯を食べるために机をくっつけ始める女の子達、ゲームで対戦をする人や、顔を伏せたまま動かない子。みんなそれぞれ好きなように過ごす昼休み、僕は今朝作ったお弁当を抱えて屋上へ向かう。 旧校舎まで歩いて、非常階段を登ると、壊れた鍵が目に入った。 だいたいの生徒は新校舎の屋上へ行くから、こんな古い所にくる生徒なんて僕と彼くらいだ。 いつもなら、この少し錆び付いた鉄のドアを開けば片手を挙げて笑うニール君がいる。 毎度のように高鳴る胸を弁当箱で押さえ付けドアを押すと、茶色の癖っ毛が風に靡いていた。 小さく微笑んだ彼は、僕だけを待っていてくれた。せめてこの時だけは、そう思っても良いよね。 |