「……お前さん、何処のクラスの子だ?知り合いに用事があるなら呼んでやるぜ?」


話しかけるべきかどうかを考える前に、ただ興味が湧いた。朝1番に特進クラスを尋ねることもだが、それ以上に、長い前髪の下が気になった。

ニールは年上には敬語を遣うものの、初めて会った人だとしても、親しみを持って話すようにしている。中には、馴れ馴れしい…と感じる者もいるだろうが、敬語よりかは早く打ち解けられる気がするのだ。目の前にいる女の子は知らない子だが、上履きの色からして同じ歳のはずだ。

用事があるとすれば、ライル狙いか学年一位の彼狙いだろう、と思いつつ、前髪で隠されていた彼女の顔が、こちらに向いた瞬間。
ニールは文字通り言葉を失った。


『…なんだ、この子……目茶苦茶可愛いじゃねぇか…!!睫毛長っ、顔小さっ!!唇ぷるぷる…うわ、美味そうだな…』


思わず浮かんだ"美味そう"という言葉にハッとして、茶色い頭を軽く振る。初対面の女の子に、失礼だったと心の中で謝りながら。

前髪で顔の右半分が隠れた彼女は、不思議そうに切れ長の瞳をパチクリさせながら、上目遣いでニールを見つめていた。黒に近い深緑の髪に、少しつり上がった銀灰色の瞳。さくらんぼのような唇に、すっきりと通った鼻筋。この辺りでは東洋系の顔立ちは珍しく、特有のキメ細かい小麦色の肌が眩しかった。

彼女の容姿に若干見とれつつも、返答がないのでもう一度尋ねてみる。彼女は小首を傾げて少し考えた後、小さな頭を左右に軽く振った。そんな姿というか、仕種までもがニールのキュッと心臓を締め付ける。
こんなに可愛い子だ。大人しそうとはいえ、男子の間で騒がれているに違いない。


『しっかしこんな子、学校に居たらライルが放っておかないと思うが……趣味じゃねぇのか?』


自他共に認める女好きのライルだ。
何組の誰々が可愛い、あそこの高校は可愛い子が多いなど、いらぬ情報を沢山知っている彼だが、この子の話は聞いたことがない。確かに、少し(というか、かなり)派手目で気が強そうな女の子がタイプらしいが。


そんな事を考えながらジーッと見つめるニールに、彼女は軽く目を伏せると、頬をピンク色に染めた。

可愛いけれど、どうしたものか……と頬を掻くニールだが、いきなり肩をポンッと後ろから叩かれる。


「あら、ニール君。風邪はもう大丈夫なの?」


振り返るとそこには、担任であるスメラギ・李・ノリエガが立っていた。スメラギはニールの後ろに居る彼女に目をやると、二人を見比べて小さく笑う。


「あらら、お邪魔しちゃったかしら?」


いかにも、という感じの笑みを浮かべるスメラギを軽く睨むと同時に、始業を知らせるチャイムが鳴り始めた。自分は目の前に教室があるから平気だが、彼女は違う。早く教室に戻らないと遅刻扱いになってしまうと思い、ニールは慌てて彼女に向き直った。


「ほら、HR始まっちまうぜ。お前さんも自分のクラス戻んねぇと……」


しかし彼女はその場を動こうとしない。それどころか、ちょっと困ったように小さく笑っている。
訳がわからない…といった感じのニールだが、そういえば……と続けたスメラギの言葉に耳を疑った。


「ニール君は彼女の事知らないのね。彼女、貴方が風邪で休んでる間に特進に転校してきたのよ」


「……は?」


「まあ詳しくは本人に聞いてちょうだい。隣の席だから。ホラホラ二人とも、チャイム鳴ったわよ。入った入った!」


今度は勢いよくバシッと叩かれた背中に手をやりつつも、チラッと横目で彼女を見る。

特進クラスに女の子?転校生?
いまだ現状に頭がついていかないニールは、小さなため息を一つつく。そして教室に入るべく、スライド式の扉に手をかけた。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -