『やっばい、遅刻だ!!』


ニール・ディランディは全力で走っていた。爽やかな秋晴れの下、額に汗を浮かべながら。

寝坊という初歩的なミスをした自分を恨みつつも、自分を置いてさっさと学校へ行ってしまった弟、ライルの姿が目に浮かべる。

今日は学校に行くようなことを言っていたが、実際のところはどうなのだろうか。
少々サボり癖があるライルは、だいたい遅刻ギリギリまで寝ていて、そのまま休みなんてことも珍しくない。実際、この一週間は眠たいからなどの理由で学校を休んでいた。

自分はお兄ちゃんなんだし、一度きちんと注意しなければ。
そんなことを思っていた矢先の寝坊だったので、曖昧な仕方になってしまったが……。
とりあえず、今はライルのことより自分のことだ。

腕に嵌められた時計が正確ならば、今の時刻は8時40分。
そして、家から学校までは歩いて15分。HRが始まる時間は8時50分。

学校への道のりは、あと半分もないはずだ。このまま走れば始業前には間に合うだろう。しかし病み上がりの彼の体は悲鳴を上げ、思うように脚が動いてくれない。


病み上がり、と言うだけあって、彼は新学期早々風邪を引き、一週間近く学校を休んでいた。

原因は季節の変わり目だったというこで、朝方の急な冷え込みのせいだ。まだ夏だと思い、油断していたのがいけなかった。朝起きた時には既に遅く、酷い寒気と頭痛を伴い、病院へ直行することとなった。

やっと風邪が治った、と思えば、(自分にとっては)新学期初日からまさかの寝坊。ツイてなさすぎる。

額から流れる汗を無造作に拭い、息を切らしながら、やっとの思いで正門を通り過ぎる。
予想通り、周りに人影はない。下駄箱で靴を履き換えると、隣の靴入れにライルのが入っているか確認してみた。

『よし、ちゃんと来てるな…』

目の前には、しっかり揃えて並べられた二つの靴。フーッと胸を撫で下ろしたついでに時計を見ると、丁度8時44分の所へ長針が動いたところだった。

「あー……間に合ったー…」

教室までは暫く歩かないといけないが、HRには余裕を持って出られるはずだ。3階まで登った先にも生徒の姿はない。既に教室に入っているようで、廊下には彼以外誰も……。

そう思った時、教室の方に体を向け、ドアの前で固まったように立っている女子生徒が目に入った。一番奥の教室……ニールのクラスだ。

『何処のクラスの子かな……。特進に用がある子なんて珍しい』

ニールのクラスには女子生徒がいない。彼のクラスとは特進と呼ばれるもので、普通科から特に成績が良い生徒数十名で構成されている。

ゆっくりと彼女の方に(正確に言えば教室にだが)向かうニールは、乱れた髪を整えながら彼女の様子を伺ってみる。

『背が高い子だな……しかも前髪ながっ…。顔見えねぇし。てか、教室の前に突っ立って何やってんだ?』

ドアに手を掛けたので開けるのかと思いきや、また下ろす。彼女がその行動を2、3度くり返し、小さな溜息を一つした頃には、ニールは既に彼女の隣に立っていた。

やはり、女の子にしては背が高い。170センチ前後というところだろうか。スタイルもかなり良い。

暫く見ていると、彼女もようやくニールに気づいたらしく、少し顔を動かした。しかし、長過ぎる前髪のせいで、顔がすっかり隠れてしまっている。

惜しいな、と思いつつ、ニールは口を開いた。




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