Look at Me!
「チャオ、ゆきさん。休憩ですか?」
「チャオ!ジョルノ君!そうだよ〜、ひと休み!」
最近バールでよく会う、年下の男の子。名前はジョルノ君。
私よりも幾分か年も幼く、世間では少年と呼ばれる年齢だ。
あえて年齢は明かさないが、私はもう立派な大人である。
そんな私とジョルノ君が話し始めたきっかけは、ちょっとしたハプニングからだった。
ここは仕事の息抜きでよく使っている、ゆきのお気に入りのバールだ。
たまたまその日は、やらなければいけない書類が溜まりに溜まっており、息抜きに来たはずのバールでも大量の書類と睨めっこしていた。
書類を眺めたまま、もう何度も口とソーサーの間を行き来したカップを掴もうと片手を伸ばしたその時。
不安定に机からはみ出していた書類に手が当たり、バサバサバサ!と豪快な音と共に紙が床に散らばる。
「あぁもう、最悪…」
伸ばしかけた手を引っ込め、 ため息をつく。そして、机から立ち上がり書類を拾おうと腰を屈めた。
「(惨めだ…。あたし、何やってるんだろ。)」
俯きながら1人書類を集める。
何をやっても上手くいく時があれば、もちろん何をやっても上手くいかない時があるもので、ゆきにとってまさに今は、何をやっても上手くいかない時だった。
もう一度ため息をつこうと息を吸い込んだとき。
「大丈夫ですか、お姉さん。」
そう声が聞こえたと同時にゆきの目の前に、書類の束が差し出される。
「…え?」
差し出されたゆきの落とした書類を持つ手から、腕、そして、肩へと反射的に目で追う。
そのまま、書類を差し出している人の顔を見上げた時。ゆきの瞳から、涙が一筋こぼれ落ちた。
「…えっ!」
今度はゆきの落とした書類を拾い上げた人物が声をあげる番だった。
その人が驚きの声を上げてもゆきは、ただただ見る事しかできなかったのだ。何故ならば、その人は息をするのも忘れるくらいに整った容姿をしていた。
「(凄い綺麗な子・・・)」
「あの、泣かないで下さい・・・。ぼくで良ければ、話くらい聞きますけど。」
「え?泣かないでって・・・あ。」
無意識にゆきは頬に手の甲を当てた。その手の甲は少し冷たい感覚を捉え、ようやく自分が涙を流したことに気がついたのだった。
「やだ、恥ずかしっ。別に悲しくて泣いていた訳じゃあないのよ?・・・それより、書類拾ってくれてありがとう!・・・えーっと、」
「ジョルノです。ぼくの名前は、ジョルノ。」
「ありがとう、ジョルノ君!」
「お姉さんの名前は?」
「あたし?あたしはゆきよ。・・・さっきの涙は忘れてね?お詫びに、好きなものごちそうするから!」
会話をしながら立ち上がり、自然にふたりは席へとつく。そしてゆきの言葉にジョルノはパァっと表情を明るくする。
そんな様子に思わずゆきは笑みを溢す。そんなゆきを見てジョルノは頬を膨らます。
まるで初めて会ったとは思えないくらいに不思議と気が合うふたりは、あっという間に仲良くなったのだ。
そして今日に至るまで、親密な関係を気付きあげた。
出会った頃と変わらず書類と睨めっこしているゆきに、ジョルノはもやもやした気分になる。休憩と言いながら、真面目なゆきは常に仕事をしているのだ。
なんとかしてゆきに休んで貰いたい。そしてあわよくば自分を見て欲しい。会うたびそう思っていた。
ふとわき上がった悪戯心に素直にジョルノは従うことに決め、早速行動に起こすことにした。
書類を持っているゆきの手を、上から包み込むようにジョルノは握った。珍しいジョルノの行動に、ゆきは早速反応を示した。
「ん?どうしたのジョルノ?・・・て、わっ!?え!??」
ゆきの持っていた書類は一瞬にして、バラの花へと姿を変えた。そしてそのバラは、ゆきの手をすり抜けジョルノの手に収まった。
これはジョルノのスタンド"ゴールド・エクスペリエンス"によるものだったのだが、スタンドが見えないゆきにとっては、いきなり書類がバラに変わたという超常現象を目撃した。という風に感じるのだった。
「す、凄くない・・・ジョルノ・・・?どんなマジック!?」
普段の仕事モードのゆきとは違うキラキラした瞳を向けられ、ジョルノは嬉しそうに微笑む。
「やだ、ジョルノなんで笑ってるの?」
「ようやくぼくを見てくれた、と思って。」
「・・・え?」
ジョルノはその微笑みを崩さず、そのバラをゆきへと向ける。
「・・・ゆきさん、ぼくのことをもっと見て下さい。」
「え・・・?それってどういう・・・。」
「どういう意味かはゆきさん、自分で考えて下さい。」
「ちょっとジョルノ君!気になるじゃあないの・・・っ!」
「秘密です。」
Look at Me! そのままずっとぼくを見続けて。そしてバラの花言葉を君に。
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