紫が似合う君へ 4/4
その箱の中には存在感のある濃い紫の輝きを放つ、宝石のついたネックレスが綺麗に収まっていた。
「綺麗でしょ?…タンザナイトっていってね、タンザニアのメレラニ鉱山でしか採れないやつなの。」
ゆきもアバッキオの隣に立ち、一緒にネックレスを眺める。
「これ、私が宝石をカットしたんだよ?」
「ゆきが…?」
実は、あの老婆が言っていたことは冗談でも何でもなく本当であったのだ。
あの老婆もスタンド使いであった。
しかしそのスタンド能力は、スタンド使いにが傍にいないと使えない不思議なものだった。
宝石を加工する能力、とでもいうのだろうか。
宝石を作りたいという者の強い意志が、美しい宝石の出来に繋がるという、奇妙な力だ。
しかし加工するにはスタンド使いの力を使うために、体力を消費する。
その為スタンドを使いこなせるゆきでさえ、完成させるのにかなりの時間を要してしまった。
「タンザナイトの石言葉は、"冷静""高貴""誇り高き人""希望"。そして明るい未来、成功へと導いてくれるって言われてるの。・・・ほら、アバッキオにぴったりじゃあない?」
そして、見る角度によって群青色だったり紫と異なる色が現れるタンザナイトは、どのようにカットするかで色合いの見え方が変わる。
ゆきは、アバッキオらしい紫をメインに加工した。
そのカットは相当難しいものであった為、時間がかかってしまった理由のひとつでもあった。
黙り込み話を聞くアバッキオにゆきは申し訳そうに話を続ける。
「すぐ帰ってこれると思ってたんだけど、予想よりタンザニアって遠くて・・・しかも暑いし体力使っちゃってヘトヘトになるし・・・日焼けたし。しかも私さっき帰ってきたばっかりなのよ?それでも、なんとかアバッキオの誕生日に間に合って本当良かった。」
その言葉を聞き、アバッキオはゆきを抱きしめた。
「アバッキオ、お誕生日おめでとう。・・・生まれてきてくれてありがとう。」
「・・・あぁ。」
ゆきが帰ってきたならば文句の一つでも言ってやろうと思っていたアバッキオだったが、溢れんばかりのゆきの想いにそんな考えはなくなっていた。
そしていつの間にかミスタやブチャラティ達はいなかった。
空気を読んで、アバッキオとゆきを二人きりにしてあげようと気遣い、早々に帰っていったのだ。
久しぶりの二人だけの空間に、今日だけは甘えてもいいよねと存在を確かめ合う。
後日、ブチャラティチームの元に現れたアバッキオの首元には、キラキラ紫色に光るタンザナイトが存在感を放ちながら揺られていた。
そしてその隣は幸せそうに歩くゆきの姿があった。