わたしの王子様っぽいひと
女の子はきっと夢見る生き物だと思う。
それはありったけのスイーツを食べたいだとか、可愛い生き物に囲まれたいとか、アイドルになりたいだとか。
きっと、人の数だけそれぞれの夢があるのだろう。
そんな私の夢は、自分だけの王子様に出会う事。
童話に出てくる王子様。幼い頃物語で読んだ、お姫様を探し出し救い、守ってあげる。そんな素敵で優しい王子様に憧れた。
そしてその夢を未だに捨てきれずにいる、私がいる。
もちろんそんな夢を周りにいってしまえば、馬鹿にされるのは知っていた。だから誰にも明かさず大切に心の中にしまい込んでいるのだ。
目立たず、平和に。そう生きてきた。
なのになぜだろう。
なぜ私は今、頭に銃を突きつけられているのだろうか。
「くそ、この女を殺してやる!それ以上近づくと本当に撃つぞッ!!」
男は誰かに向かって叫んでいた。でもこの女、とは確かに銃を突きつけられている私の事で。
「(・・・私、殺されちゃうの!?)」
恐怖と驚きで声が出ず、急な事で頭はパンク寸前だった。
私と、私に銃を向ける男の目の前に一人の男がやってきた。
「おいおい・・・人質とはなかなかよォ、屑みてェなことするじゃあねーか。」
その男の手にも銃は握られていて、明らかに私たちの方に向けられていた。
「聞こえなかったのかッ!?これ以上近づくと、この女を撃つぞッ!俺は本気だからなッ!!?」
「い、痛ッ・・・」
ぐりぐりと銃口は頭に押しつけられ、その痛さに声を漏らす。助けを縋るように、不思議な帽子を被っている男の人を見る。
でも、男の口から発せられたのは私を絶望から突き落とす一言だった。
「悪ィけどよ、俺とその女の子は知り合いでもなんでもねー。その子が生きようが死のうが俺にはぜェ〜んぜん、関係ないぜッ!」
くらっとする私を余所に、私に銃を突きつけている男は自分が終わりと悟ったのか、狂ったように叫び始める。もう今にも引き金を引きそうだ。
もう駄目と悟った私は、目をこれでもかと強く瞑る。どうせ撃つならせめて苦しまず死なせて欲しいと、ただそれだけを願った。
数発の発砲音が聞こえた。
重力に引っ張られ身体は後ろに倒れていく。わあ、凄い。全然痛くない、よかったよかった。なんて呑気に考えていた私は、突然腕を引っ張られてその目を開いた。
視界には中腰で、ゆきの手を握る帽子を被った男がいた。
「え、死んでない・・・?」
「・・・恐怖で頭が可笑しくなっちまったのか?さすがによォ、さっきは勢いであぁ言っちまったけど、無関係なヤツを巻き込むのはちと可哀想じゃあねェかと思ってよォ。」
ぽかんとするゆきを余所に、その男はケケケと笑った。
「ま、俺は任務を遂行できたし、おめぇは命が助かった。細けェー事は置いといて、めでたしめでたしじゃあねーかッ!!」
うんうんと腕を組み、満足そうに頷いている男はゆきを見た。
「そんな顔すんなって!俺はミスタってんだ。あんたは?」
ゆきは名前を教えていいものかと少し悩んだが、仮にも命の恩人だという事を思いだし口を開いた。
「・・・ゆき、です。」
「そーか、言い名前だなッ!・・・よっと。」
ミスタはゆきの名前を聞くと、立ち上がった。そして、腰をかがめたかと思うとゆきに手を差し出した。
「ゆき、どうだ?この出会いに祝してメシでも行かねェ?旨い店がこの近くにあんだよ。」
「(このタイミングで・・・?)」
自由奔放で楽天的な人だと思ったが、ゆきはなぜか嫌な気はしなかった。差し出された手を握り返した。
「えと・・・、お願いします?」
ミスタはゆきを引っ張り上げると、楽しそうにまたケタケタと笑った。
「よっしゃぁ、そうと決まればさっさと行こうぜッ!"こいつら"も腹すかせてるしよォ。」
ミスタの"こいつら"という言葉に首を傾げたが、そんな事は一瞬で気にならなくなった。
「(悪い人に捕まった私を、救い出して守ってくれた。という事は・・・王子様?)」
ゆきの思い描いていた"王子様"とは、容姿も性格もほど遠いがその言葉がふと、思い浮かんだ。
チラリと隣を歩くミスタの横顔を盗み見る。
ゆきに喋りかけるその姿は、とても楽しそうに笑みを浮かべていた。
ほんの少しドキッと音を立てた自分の心臓に、こんな王子様がいてもありかなとミスタに向けて微笑んだ。