フェリーチェ 3/3
「わぁ・・・」
思わず感嘆の声が溢れてしまうほどの、豪華な料理の数々にゆきはキラキラと瞳を輝かせた。
なにより美味しい料理に目がないゆきは、苛立っていた気持ちなどすでに何処かに飛んでいっており、美味しい美味しいと次々に料理を口に運んでいった。
そしてトドメを刺したのは、主菜でもあるお肉。
とろりとしたソースのから、顔を覗かすのはレアの赤い姿。
見るからに分厚く皿に滴っている肉汁に、ゆきはゴクリとのどを鳴らす。
ゆきだけでなく、ミスタもその肉の濃厚な香りにときめいていた。
丁寧にナイフを入れると、それは簡単に二つになる。
そして口の中では、まるでマシュマロのように溶けてなくなった。
「おいしいッ!!!ミスタ、こんな美味しいの初めて食べたッ!!!」
「うんめェッ!!!これはイタリア1旨いぜ・・・ッ。ゆき、でかしたッ!!!」
そして二人は顔を見合わすと、吹き出した。
しばらく笑い合った後、ミスタが口を開く。
「その、悪かった。お前があのおっさんに触られてんのが、すっげェイライラしたんだ。・・・ゆきも嫌な思いしてる事なんか、少し考えれば分かるのによォ。」
「ううん、私こそごめんね。ムキになっちゃって。ミスタが謝ろうとしてた事も分かってたのに、知らないふりしちゃってた・・・。」
仲直りし、絶品のお肉も食べ終え満足した頃。
ウエイトレスが二人の元へやってきた。
「ブチャラティ様から、お二人へとプレゼントするようにと受け賜っております。」
そうしてテーブルの上に置かれたのは、イチゴがふんだんに使われたケーキだった。
「え、ブチャラティから!?なんで・・・?」
驚くゆきを前に、ミスタはケーキの上に置かれているホワイトチョコのプレートに気付く。
"仲直りおめでとう"
そうチョコレートで書かれた一言に思わず吹き出す。
「・・・?どうしたのミスタ。」
「いや、ブチャラティらしいなって思ってよォ。」
未だにはてなマークを浮かべているゆきに、ミスタはプレートを指さす。
「何これ!・・・ケーキのメッセージにこんなの頼む人初めてなんだけど。」
きっと今日のゆきとミスタの姿を見て、気を利かせたブチャラティがリストランテへ連絡したのだろう。
「素敵な上司をもったね、私たち。」
「だな、間違いねー。ブチャラティのせいでもう喧嘩なんかできやしねェ。」
「ほんと。仲直りするたびきっとブチャラティならケーキ用意しそうだもん。」
お会計を済まし、仲良くウエイターにお礼を告げて二人は帰りのタクシーに乗り込む。
隣り合う二人のその距離は、隙間のないほどぴったりとくっついており、幸せそうに肩を寄せ合っていた。
そしてネアポリスを包む星空が、そんな二人の行く末を明るく照らしているのだった。
※felicità(フェリーチェ)・・・イタリア語で「幸せ」