フェリーチェ 2/3
ミスタとゆきはそれから、顔を合わせても目も合わせず口も聞かなかった。
絶対もう口も聞かない。
そう決めていたゆきだったが、ふと思い出した。
今回予約したリストランテは、三つ星ホテルの超高級リストランテなのだ。
予約も満席だったところをブチャラティの力でなんとか押さえて貰ったので、これでキャンセルをしようものならば、ブチャラティの顔に泥を塗るようなモノである。
無言のまま、一切視線すらも合わせずドレスアップした二人は家を出た。
そして予約した際あらかじめ手配していたタクシーへと乗り込み、今に至る。
「着きましたよ、お客様。」
タクシーはゆっくりと速度を落として停車する。
運転手は恐る恐るといった様子で、ゆきとミスタに話しかけた。
「ほらよ、ありがとさん。」
ミスタはチップを含めた料金を運転手に渡して、タクシーから降りた。
ゆきも少し間を開け、ミスタの後ろへとヒールのカツカツと心地よい音を響かせついて行った。
「お待ちしておりました。」
むすっとしたゆきとミスタを出迎えたのは、二人とまるで正反対な微笑みを浮かべるウエイターだった。
ゆきはミスタの方へ振り返る事もせず、ウエイターへと黙ってついて行った。
席に案内され、二人はそれぞれ豪華な装飾が施されているメニューを手に取る。
そして一通り眺めると、静かに同じタイミングでメニューを閉じた。
ミスタは前菜2品、主菜。そしてワインを頼むとゆきをチラリと見た。
無駄に長く一緒にいるだけあって、食べたいものも癪に障るが全く一緒だった。
とても嫌だったが、そこは食べたいものを優先させた。
「・・・それと同じのを。」
「かしこまりました。」
ウエイトレスは一礼して、二人の元を去って行った。
「なぁゆき。いつまでその変な意地張ってんだよ。」
「・・・。」
聞こえません。とでもいうようにゆきは返事をしない。
ミスタはここに来てまでも貫くゆきの堅い意思に苦笑いする。
そんな二人の凍えるような空気を一瞬にして吹き飛ばしたのは、先程注文を聞きに来たウエイトレスだった。