歩む道 2/4
そして早速ゆきは、自らのその決断を後悔することとなる。
首元に当てられる、鋭い鋭利な尖ったモノ。
そしてそんなゆきの傍には、明らかに様子がおかしく何やらブツブツ独り言を話す男がいた。
チラリと男の様子を伺うと、その目は焦点が定まっていなかった。
「(…最悪。私の人生、ここで終わっちゃう。こんなヤク中に殺されて死ぬんだ。…本当、ツイてないなぁ。)」
なんてこれから自分が殺されてしまうかもしれない状態なのに、どこか他人事のように考えていた。
ふと視線を動かすと、もうすっかり見慣れて存在を忘れていたソレが目に入る。
「(ずっと傍にいるだけで、何もしないのね。…最後の最後まで変なヤツ。)」
そうしてゆきは、覚悟を決め瞳を閉じた。
しかしいつまで経っても訪れぬ衝撃に、ゆきは不思議に思って薄らと目を開けた。
視界には先程と同じ薄暗い路地裏の景色が映る。
次はチラリと横を見る。
ゆきは今までとは様子がさらに違う男の姿に驚き、目を見張った。
なぜならその男の口には、ジッパーが取り付けられていたからだ。
そして首に当てられていた違和感が無くなった為に、無意識に視線を下に逸らした。
ゆきの視界には、ナイフを握りしめたままの右手が"落ちて"いた。
「(あぁ、この男の手か…。)」
普通では有り得ない状態に直面しているのに、何故かゆきは冷静に事を判断する事が出来ていた。
"普通ではないソレ"を毎日見ているからだろうか。
それとも、瞬く間に様々な事が起きているからだろうか。
それはゆきには分からないことだったが、素直に今起きていることを受け入れる事が出来たのだった。