雨の日の逃亡計画 3/3
「…君を、迎えに来たんだ。」
突然男は告げた。
「…?だから、さっきから扉は開けられないって…っ!!!!!」
呆れたようにゆきが扉の向こうの男に言い返した瞬間。
固く頑丈に閉ざされていた扉へと、突如ジッパーが現れた。
思わずゆきは扉の前から一歩後ろへと下がる。
「え…っ!?あ、あなたは…。」
驚く暇もないままゆきの目に入ってきたものは、そのジッパーから身体を覗かす"あの青年"だった。
そのままゆきの正面へと立ち上がった男は、ゆきの前で片膝を地面につけ、跪きそっとゆきの手をとった。
その男は唯一ゆきが、窓から興味を示していた青年であったのだ。
「なんで、あなた…!!?」
驚きで言葉に詰まっていると青年は更に口を開いた。
「俺の名はブチャラティ。…君の名前を教えて欲しい。」
真っ直ぐとした瞳に見つめられ、ゆきは何も考えられなくなった。
「…ゆきよ。」
ぶっきらぼうに答えたゆきのことなど、まるで気にしていないように微笑んだ。
「…いい名だ。可憐なゆきにとても合っている。」
そうして、ブチャラティはそのままゆきの手の甲へ軽い口付けを落とした。
「…っ」
「さて、ゆき。いきなりで悪いんだが…ここでゆっくりしている暇はないんだ。」
ブチャラティはおもむろに立ち上がり、扉の方へと視線を向ける。
「どうして?」
「追っ手が来るかもしれない。」
「追っ手…。」
不安そうに顔を歪めたゆきをブチャラティは横目で見る。
「ゆき、君のことは俺が必ず守ると約束しよう。だから、安心してくれ。」
ブチャラティはゆきに近づき膝の裏に手をまわすと、一気に抱きかかえた。
「…っわ!」
所謂、お姫様だっこという形でゆきはブチャラティの腕の中に収まる。
そして窓の方へ走り出した。
ゆきはぶつかる、と思いぎゅっと衝撃に備えて瞳を堅く瞑った。
「スティッキィ・フィンガーズ!!!」
そんな声と共に、一瞬にしてふわりと湿った空気がゆきの頬を撫でる。
ゆきはすぐさま自らが外に出たことに気がつき、今度は目を見開いた。
ブチャラティに抱えられて恥ずかしいとか、高さがあるのに飛び降りて大丈夫なんて考えは浮かばなかった。
ずっと眺めていた外へと出られた喜びと、これからの自らの運命に期待を込めてブチャラティへと抱きついた。