雨の日の逃亡計画 2/3


窓の近くに置かれている椅子に腰掛けるゆき。

そのまま静かに瞳を閉じた。


ーーーその時だった。


これまで音を立てることがなかった部屋の扉が、ガチャガチャと揺らされる。

何者かが扉を開けようとしているようだった。


弾かれるようにゆきは椅子から立ち上がり、扉へと向かう。

そして未だ部屋の扉は開かず、音を立てて乱暴に揺らされている。

普段ならば話しかける事などしないゆきだったが、ほんの出来心で扉の外の人物へと声をかけた。


「…あの、無駄ですよ。この扉、開かないんです。中には私しか居ないので、開けることは諦めた方がいいと思います。」

ガチャガチャと言う音は止み、代わりに声が返ってくる。


「俺は、君に用があるんだ。」

声の低さから、扉を開けようとしている人は男のようだった。


知り合いなど、もうこの世にはいない。

男の知っているような口ぶりにゆきは不思議に思い、再び口を開いた。

「…私、あなたのこと…知らないわ。」


「君は俺の事を知っている。…そして、俺も君の事を知っている。」

扉の向こうから聞こえてきた声は、ゆきの頭を混乱させた。


「そんな筈はないわ!…だって私はもうずっとこの部屋から出ていないもの。誰とも、会っていないのよ?」

ゆきがこの牢獄のような部屋に囚われてから、たった一度も人とは会っていないのだ。

先ほどより少し大きな声で#ゆきは男へと返事をする。

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