群疑満腹 1
ブチャラティはゆきの言葉を聞いて、切なそうな顔を一瞬した。
しかし、すぐに真っ直ぐな瞳でゆきを見る。
「俺は過去を無かったことになんかはしない。ゆきとの思い出も、忘れた事は一度もない。…だが、ゆきの言っている事が間違っているとも思わない。…だから言わせて貰うぜ。」
そう言って、ブチャラティはゆきの手を取り言う。
「初めましてゆき。そして、久しぶりだ。君のお母さんに似て…美しくなったな。」
今度はゆきが目を見開く番だった。
揺れる瞳でブチャラティを見た後、一度固く瞳を閉じた。
そして目を開けた時にはもう、今まで通りのゆきへと戻っていた。
ブチャラティと握手をした手を離し、微笑んだ。
「よろしく、ブチャラティ。…さっそく、どうすればいいか指示を貰えると嬉しいな。」
「あぁ、その事なんだが…。俺のチームに君を紹介したい。行きつけのリストランテで待っていだろうから、案内しよう。」
ブチャラティはそう言い、正面に止めてあった黒塗りの車の運転席へと乗り込む。
その後をゆきは着いて歩き、助手席へと乗り込んだ。
車のエンジンをかける音が響くと、まもなくブチャラティの運転する車は走り去って行った。
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