怯える心 1
静かな車内の沈黙を破り、男は口を開く。
「ゆき。お前ェ、ちゃんとターゲットを殺ったんだろうな。」
真っ直ぐ前を見ながら、決してゆきとは目を合わせない男。
「大丈夫、"お父さん"。操ってる感覚がなくなったの。間違いなく、死んでるわ…」
同じく、車の外を見つめながら抑揚なく答えるゆき。
「そうか、ならいい。…最近あのガキは調子に乗りすぎているからな。」
ボソッと男は呟く。
それを聞かなかったふりをして
ゆきは膝を抱え込み、再び瞳を閉じた。
早く、早く、この空間から解放されますようにと。
しばらく車は走った後、静かに停車した。
「ついたぞ、降りろ。」
その一言で、自らが拠点にしている家に着いたことを悟った。
黙って車からおり、"お父さん"の後をついて行く。
誰もが羨むような新しく、やけに綺麗なマンションを見上げる。
ゆきにとってはその綺麗なマンションも、まるで牢獄の様に思えてならない場所なのであり、ゆきをこれ以上なく憂鬱な気分にさせた。
その牢獄の様なマンションへと、ゆきは俯き加減で中へと入っていった。
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