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「ねえ、死んだらどうなるのかな」


どこまでもどこまでも青い空を寝転がって見ていたら、無性に腹が立って、理由はよくわからないけれど死んでみたくなった。


「ねえ、セブルスは知ってる?」


隣に座って本を読んでいるセブルスに聞いてみたけど、まるでなにも聞こえていないような素振りをされるだけで、彼からの返答はなかった。


「ねえ、ねえ、知ってる?知ってる?セブルス、セブルス」
「……うるさい」


私が鬱陶しくなるくらい何度も聞いたら、セブルスはぱたんと本を閉じて私を見下ろした。黒い、真っ黒な瞳と、ぶつかる。それが怖いって言う人もいるけれど、私はそうは思わない。真っ黒で、真っ暗で、救いようのない瞳。


可哀想、かわいそう、カワイソウ。かわいそうなセブルスの、かわいそうな瞳に見つめられると、どうしようもなくなる。もっと私だけを見てほしい、私だけを聞いてほしい。私も彼だけを、見ていたい、聞いていたい。生気のない目でセブルスを見つめていたら、セブルスは私の頭の横に手を付いて、私を覗き込むように見つめた。


「どうしてお前は死にたいんだ」
「……わかんない」
「理由がないなら、生きろ」
「でも、生きる理由もない」


私たちは一瞬も目を逸らさなかった。瞬きをすることすら気後れしてしまうくらいに、ずっと、見つめあっていた。


「あんなクソみたいな奴の血が流れてるのに、生きる理由なんてない」


ねえ、わかる?大嫌いな、ぶっ殺してやりたいくらい大嫌いで、呪わしいニンゲンの血が、血がね、血が、血が!流れてるんだよ。死んでほしいのに、死なないんだよ。こんなに、こんなに、死んでほしいのに。そんな奴の血が、自分の中で流れててさ、私もいつかああなるんだって思ったら、生きる理由なんてないじゃない。


そう言って笑ったら、セブルスはかわいそうなその瞳で、私を可哀相に見つめた。やめろ、そんな目は。私はかわいそうなんかじゃない。カワイソウなのは、お前だけでじゅうぶんなんだよ。



「ねえ、しにたいよ」


生きたくない生きたくない生きたくない生きたくない。


「いきたくないよ」


痛い痛い痛い。心臓が呪われた血を、今も、この瞬間も身体中にばらまいて、おかされて、骨が、バキバキと軋む。確かに私には聞こえるのに、誰にも聞こえはしない。痛くて痛くてたまらないの。お願い。わかって。


「……お前は、」


セブルスはかわいそうな瞳で、かわいそうに私を見つめて、私の顔を撫でながら囁いた。


「逝きたいんじゃなくて、生きたいんじゃないか」


生きたくない生きたくない生きたくない生きたくない。


生きたく、ない?違う。逝きたく、ない。


逝きたくない逝きたくない逝きたくない逝きたくない。


「うあ、あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


生きたくない、逝きたくない。叫んで、泣いて、喚いて。セブルスはカワイソウな癖に、カワイソウな瞳で私を見つめながら、カワイソウな私を抱き締めた。


「いきたくない、よ」


カワイソウなのは、セブルスじゃなくて、カワイソウなのは、私なんだ。私、なんだ。バカにしたように青い青い空は、どこまでも高く広がって、私を、嘲笑っていた。この広い空の下に、救いは、ない。カワイソウな私に、救いはない。


(2010)

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