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声に出して数を数えながら、まるい石ころを一列に並べた。長い時間をかけて磨耗され、滑らかになった石の表面を指でなぜたときのつるりとした心地よさが、いつの頃からかずっと好きだ。ひとつ手のひらに乗せて口付けると、無機質なそれは思うよりもずっと冷たかった。


暑い夏が終わり、厳しいと噂されていた残暑が過ぎ去り、駆け足でやってきた秋の空気は、少しずつ、だけど確実に私たちを取り巻く空気を変えていった。色鮮やかで、だけどどこかさみしいような、そんな季節がじきにやってくるのだ。


季節の変わり目の空気に胸を踊らせ、真夏に比べ冷たくなった湖の水に足を濡らしながら拾い集めた石ころは、何の価値もないけれど、それでも何故か私にとっては宝物のように思えた。


足を拭くのも面倒で、濡れたままにしておいて地面に寝転んで目を閉じた。土の臭いと、草の青臭さが、今はとても気持ちよくて、仕立て直したばかりのローブが汚れるとか、スカートのプリーツがよれるとか、そんなことはどうでもよかった。


「何してるの」


耳に心地好い声が、私の耳を擽った。目を開けなくてもわかる、彼の声。すぐに返事をしてしまうと面白くない気がして、わざと黙ったままでいると、冷たい指で頬をつねられた。


「痛いじゃんか」
「無視なんてするからだよ」
「だって、リドルだってわかったから、いいかなって」


目を開けてみると、思っていたよりも近くにリドルの顔があって、一瞬息が詰まった。うつくしすぎるものは、平凡な私にとって刺激的すぎるのだ。いまだ私の頬をつねる彼の手首に触れると、静かな鼓動が確かに感じられた。


「足が濡れてるね」
「宝探ししてたの」
「この石ころかい?」
「リドルにもあげるよ」


握りしめていた石をリドルの手に乗せると、彼はそれを手のひらの上で軽く転がせてみせた。私の手の中にあるうちは何か特別な宝物だったのに、今は違うように思えて、少しだけ、さみしかった。


「何を考えてる?」
「なんだかね、急にさみしくなっちゃった」
「ひとりじゃないのにさみしいのかい」
「ひとりじゃないからさみしいんだよ」


もとからずっとひとりで、これからもずっとひとりなら、私はきっとこんな気持ちになることもなかっただろう。リドルさえいなければ、さみしいなんて知らないで生きられたのに。でももしリドルがいなかったらと考えると、それだけで胸の奥が痛んだ。


「ねえ、ずっといてね」
「君はたまに、変なことを言うね」


リドルは笑いながら、私の頬を両手で包み込んだ。リドルを思い熱を帯びた頬には、彼の指の冷たさがちょうどよかった。いとおしいと思う気持ちと、ほんの少しのさみしさとで、どうしようもなく泣きたくなって目を閉じた。


「ねえ、今度は一緒に宝探ししようよ」
「いつか、ね」


触れるだけのキスは、それでも私にとっては確かなよろこびになった。目を開けて見つめたリドルの瞳の奥が紅く艶めいていて、そのうつくしさが欲しいと思った。


私があなたを思うように、あなたが私を思っていてくれたなら、どんなにしあわせだろうか。心のどこかで叶わないと知りながらも、それでも私は願いを込めて再び目を閉じた。


(2012)

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