『クロス!!』
「随分美人になったじゃねぇかルキア。見違えたな」
『そんなクロスは化けてるんじゃないかってくらい全然変わってないね!歳をとってないみたい…』
「おいおい、褒め言葉も覚えたのか。照れんじゃねえか」
「すみません師匠。大変申し訳ないのですが僕の前でイチャつくのはやめてください。僕の右腕が暴走しそうです」
ちょっと褒めたら満更でもない感じになったクロスの様子に今にでもアレンは殴りかかるんじゃないかってぐらいイライラしていた。久々の師弟の再会なのに乱闘はやめて!?!
愛の唄を奏でよう
-101話-
『クロス、すごい…』
「い…一方的……」
「オレらがどんなに攻撃してもビクともしなかったティキがあんな銃弾で…」
クロスのイノセンスにより護られている私たちは、クロス対ティキの戦いを見守っていた。明らかに余裕で涼しい顔をしているクロスの力に背筋がゾクゾクした。改めて自分の師匠の強さに驚愕するのだった。
「ちょっとヘコむな…力の差がここまでハッキリ出ちまうと。ノアもクロス元帥も。オレらはまだまぁ弱い」
ラビの言葉は私たちの胸にそれぞれ響いた。ここまでの激闘の数々は私たちを間違いなく強くはしてきたけど、未だ元帥たちの足元にも及ばない。
クロスのイノセンスが放つ弾丸が容赦なく変貌してしまったティキを襲う。撃ち込まれる姿を目にする度に、私の中のあの子が泣いている。
やばい。通路の時と同じように、無意識に涙が出そうになる。
__可哀想……苦しいのね、ティキ……__
脳裏にあの子の声が反響したのと同時に、私たちの周りの地面も大きく揺れ動き、亀裂が走った。私は咄嗟に負傷しているリナリーを支えると彼女の手が私に触れて、きゅっと力が入る。
「そろそろか…」
「崩壊の時刻(じかん)…っ」
「師匠ぉーーー!!!」
アレンがクロスに向かって叫んだ。それに呼応するようにクロスがトドメの攻撃を繰り出そうとした時だった。ティキの足元が大きく崩れたかと思いきや、肩に彼を乗せた千年公が現れたのだ。
対面するクロスと千年公。しかしその戦いに見入る暇もなく、私たちに危機が訪れる。私たちの居場所に亀裂が走り、地があっという間に割れた。私とアレンとリナリーを残して、ラビとチャオジーが落下に巻き込まれかける。
「ち…っ!」
『ラビ!!』
「伸!!」
「!!」
アレンが差し伸べた手にラビは己のイノセンスの槌を伸ばした。しかしあろう事か、アレンが掴んだ瞬間にその槌は粉々に砕けてしまった。サァッと血の気が引いていく。だめ、だめだ。二人が落ちてしまう。
『嫌!行かないで!!ラビ!チャオジー!』
「ラビ…チャオジ…」
「うああぁあぁぁぁぁ!!!」
一瞬の出来事で、二人は瓦礫と共に姿が見えなくなってしまった。アレンの慟哭でより胸を締め付けられた。ユウちゃんも、クロウリーも、ラビも、チャオジーも…。どれだけ奪っていくの。どうしてこんなこと…!!
私たちが悲しみに暮れている間にも、方舟の崩壊は無情にも進んでいく。ついには私たちの足元にまで崩壊が及び、リナリーが体制を崩して落下しそうになる。
『リナリー!!』
それを私が慌てて手を差し伸べたため、私諸共瓦礫の底へ落ちそうになった。でも、落ちていかない体にハッと上を見ると手首にアレンのイノセンスがしっかりと絡まっていた。
「道化ノ帯(クラウン・ベルト)!!」
『アレン…!!血が…っ!』
ぽたぽたと頬につく水滴はアレンから落ちてくる血液だった。無理をしているのは明らかだった。せっかく治ったばかりのイノセンスがまた不能になってしまったら…!!
ぐっと引き上げられ、なんとか落ちずに済んだものの、またいつここが崩れるかもわからない。伯爵と決着をつけなければ、一刻も早く。
「伯爵!!」
前を見据えると、こちらに不敵な笑みを向ける伯爵がいる。
「何をしに来たのです?この舟を奪いに来たのなら遅すぎましたネェ。すでにこの舟の『心臓』は新しい方舟に渡りましタ☆」
「『心臓』がなくては舟は操れない。奏者であっても何もできませン☆愚かですねェ、クロス☆二度と出らないとも知らずニ…フフ☆」
「この方舟は最後にエクソシストの血を吸う柩(ひつぎ)となるのですヨ☆」
脳裏を過ぎるここにいない4人のメンバーたち。
くっと込み上げてくる負の感情に耐えている時、アレンのクラウン・クラウンが大きく彼の体をまとった。
「くそ…っ、くそ!!!!」
「これ以上は…体のキズが……、アレンくん!!」
物凄い速さで伯爵のもとへ飛び出していったアレン。分かりやすいほどの伯爵の挑発は、今のアレンを怒らせるには十分過ぎた。アレンの居た場所には多くの血液が滲んでいる。まずい、アレンの暴走を止めないと――!
急いでイノセンスを発動させ、地面を思い切り踏み込んだ。伯爵に弾かれて距離をとったアレンの前に回りこみ、大きく手を広げた。
『アレン、だめ!止めて!!憎しみで伯爵と戦わないで!!』
「どけルキア!!」
『嫌!!』
頭に血が昇ったアレンの目はいつもの優しさは無く、憎しみが込められた瞳を向けられた。それに怯むわけに行かず、避けようとしない私を突破しようとアレンは向かってくる。
「カルテ・ガルテ!!」
しかし、そこにクロスのイノセンスにより、アレンの動きはぴたりと止まった。アレンはキッとクロスを睨むが、一方のクロスは深深とため息をついている。
「やめろ。仲間に死なれて頭に血が昇ったか馬鹿弟子。」
「聖母(マリア)の能力を解いて下さい師匠!伯爵を!!」
「嫌でも這い上がってこい。憎しみで伯爵と戦うな。」
「!!」
地に降り立った私は、リナリーを横抱きにしてクロスの場所まで駆け上がった。
「…良い兄弟弟子愛じゃねぇか、泣けるぜ」
『そんな悠長なこと言ってる場合じゃないよ、クロス』
「あぁ、分かってる」
リナリーを下ろして、アレンが戻ってきたのを確認した時には、伯爵はロードが作ったような扉の中にレロとティキと共に入っていってしまった。
「さようなラ、エクソシスト☆」
その言葉を残して、扉が閉まったと同時に扉ごと姿を消し去った。崩壊の音が響くこの空間で、私たちに出来ること、残されたことは一体――。
「立て。お前らに手伝わせる為にノアから助けてやったんだ」
『手伝う…?』
「何を、するんですか…?」
「任務だ。」
絶望の淵にいる私たちを救うための手段、それは私たちの手にかかっていた。
end
伯爵の語尾のハートは機種によって文字化けするので星で統一します。そして数年ぶりの更新ですみません!!!
20200301
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