忍足+跡部


 カチッと。まるでそれはチャンネルが変わったかのように、スイッチが切れたかのように、まるで人が変わったかのようになる奴だと思った。時折見せるその冷徹な表情に、鼓動が速まる。これは絶対的強者と対峙したときに危険だと警告するものだ。俺は訳もなく不安になり、彼から目を離すことができなくなる。そしていつもの彼に戻ると同時に俺もやっと彼から目を離すことができた。
 だからだろうか、俺は彼が苦手だった。

「跡部」
「…何か用か」
「うん、まあ、そんなところやね」
「……?」
 彼らしくない曖昧な答え方に違和感を覚えたが、指摘するのは面倒だったのでそのまま流し、次の言葉を待った。
「跡部は、俺のことが嫌いなん?」
 直球で聞いてきたことに驚いたが、何より今にも泣き出してしまうんじゃないかと思う表情でこちらを見てくるから、びっくりしすぎて声を出すことができなかった。
「俺、跡部が嫌がること、何かしたんかなあ?」
 声は震えていた。泣いているんじゃないかと錯覚するくらい頼り無さげな声だった。
「…どうか、したのか」
 ようやく出た言葉は当たり障りのないもので、忍足の問いには答えることができなかった。
 お前のせいじゃない。ただちょっと個人的に苦手意識を持っているだけだ。そう答えればいいのに、なかなか言葉にすることができない。ありのままの気持ちを彼に伝えたら、壊れてしまうんじゃないかと思う脆さがあったからだ。
「跡部はそうやって話を誤魔化すんやね…」
 ふ、と儚く笑ったと思った途端、それは訪れた。がらりと変わる雰囲気。顔つきはあまり変わらないものの、黒い瞳はどこまでも冷めていた。こくり、と小さく息を飲んだ。
「本心言ったらどうなん?なあ、怖いんやろ、俺が。よおく顔に書かれてんで、苦手やって」
 自嘲するかのように笑う彼はやっぱりいつもとは違う。怖い、ただ純粋にそう思った。
 だが、その気持ちは次の言葉で砕け散ることになった。
「でも、自分だけや。跡部だけが俺を見つけてくれた。誰にも分からんように隠されとった部分やったんに。怯えてもええ。苦手やったら苦手のままでもええから、俺のことは知っといて欲しい。少しだけ、避けへんようにして」
 まるで幼子のようだ。くしゃりと顔を歪めこちらの様子を窺う忍足を、俺は突き放すことができなかった。
「ああ。避けないし、ちゃんと覚えとくから、だからそんな情けねえ面すんな」
 さほど変わらない背丈の忍足の頭を撫でる。端から見ればおかしな光景だろうが気にせずわしわしと撫でた。
「ありがとぉな、跡部」
「ばあか、この俺が頭を撫でてやったんだ。ありがたく思って当然だろう。もっと敬ってもいいくらいだぜ」
「相変わらずやな」
 彼に対して恐怖を抱いてた自分が馬鹿らしく思うほど、居心地が良かった。
「あ、せや、俺のことは侑士って呼んで。普段の俺と区別をつけたいねん」
「わかった、侑士、な」
 一文字一文字を噛みしめるように、呟いた。















―――――――
二重人格な忍足を書きたかったんだけど、よくわからないものになった…。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -