視聴覚室は出会いの場 荒井と風間 | ナノ 七不思議集会後





今日は朝から災難だった。
目覚まし時計が夜中に電池が切れたらしく30分の寝坊。
通学電車の中では、人身事故の影響で満員電車が更に混雑。
視聴覚室で筆箱を落としてペンが床に散乱。
お昼休み、屋上でご飯をとっていたら突然の天気雨。
借りようと思っていた本は運悪く貸し出し中。
午後の授業でいつも使っているペンが見つからず、先程拾い損ねたことに気づく。
放課後、ペンを探しに視聴覚室に向かったが、僕のペンは見当たらない。



これで終わればまだよかったのだが、今日の僕はどこまでも運に見放されているらしい。



先日、日野先輩に頼まれ参加した企画の時に居合わせた大嫌いな人。
軽率で、自分勝手で、いい加減で、頭が可哀想な、僕が最も好かない部類の人間。
生徒数の多いこの学校では、もう二度と会う事もないだろうと思っていた。いや、二度と会いたくないと思っていた。
しかし、視聴覚室で落としたペンが見当たらず、諦めて帰ろうとしたら、何の巡り合わせか。
出入り口では鉢合わせたのは、その、最も会いたくなかった人物だった。

「……そこに立たれていると邪魔です。どいてくれませんか、風間さん。」

僕よりも頭一つ分程大きい彼を、下から睨みつける。
一刻も早くこの場から立ち去りたいと思う僕とは反対に、風間さんは僕の顔を見た直後から、なにやら頭を抱えてその場から動かないでいる。邪魔でしかたない。
「んー…ちょっとまって。僕の名前を知ってるってことは、やっぱりどっかで会ったんだよねぇ。」
ずい、と顔を近づけてきた風間さんから思わず距離をとる。
というか、ついこの間顔を合わせたばかりだと言うのに、もう忘れたのかこの人は。本当に頭が可哀想な人だ。
思わず眉間に皺を寄せると同時に哀れの目を向けていると、彼はぱっと顔を明るくし、パチンと指を鳴らした。
「思い出した!この間、日野の企画の時にいた陰気な河童くんだ!」
「荒井です。」
あぁ、しまった。あまりに低能な悪口に苛立ち、思わず名前を口にしてしまった。
本当に今日は災難続きだ。
「そうそう、荒井くんだ。女の子の名前は直ぐ覚えられるんだけどね。男はあんまり興味ないからかな、なかなか覚えられないんだ。」
「そうですか。僕はもう二度と貴方と会いたくないので忘れて頂いて結構です。それと、いい加減どいていただけませんか?貴方がそこに立っていると貴方の無駄にでかい図体が邪魔で僕が帰れないんですよ。」
一息にまくし立て再度睨みつけるが、風間さんはその場から動こうとしない。
動こうとしないどころか、今度は僕のことをまじまじと見つめてきた。
正直言って、気持ち悪い。もういっそのこと押し退けて出て行こうか。
「ふむ…やっぱりねぇ。偶然にも再会したことだし、君に忠告しておこうか。」
「はぁ? 貴方から頂く忠告なんて――っ!?」
即座に反論しようとしたら、突然人差し指を唇に当てられ、言葉を遮られた。


「君、『変なもの』に好かれやすいみたいだから、気をつけた方がいいよ。」


……なんなんだこの人。盛大な溜息をつきたくなった。
『変なもの』とは貴方の事ですか、とでも言い返えそうと目を彼に向けた。
でも出来なかった。
おどけた口調で口元に笑みを浮かべているものの、きらりと光った彼の眼は真剣そのもので。
その目を見た瞬間、僕の背筋にゾクリと悪寒が走り、言葉を詰まらせてしまった。

しかし、それも一瞬の事だった。
動揺した僕を見ると、風間さんはいつもの人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべたのだ。
……あぁ、なるほど。僕は暇つぶしの為の玩具にされた訳か。
そう理解すると、押し当てられていた手を払いのけた。
風間さんは僕の行動を想定していなかったのか、驚いた表情を浮かべている。
「ふざけたこと言わないでください。」
まったく、構うだけ時間の無駄だったんだ。最初から相手にしなければよかった。
「はぁ? 僕はふざけてなんて、ってちょっと。」
まだ何か言いたそうな風間さんを無理矢理押し退けて、視聴覚室を出た。
これ以上この人に付き合っていても、自分の苛立ちが倍増するだけだ。



「荒井くん。」
風間さんが後ろから声をかけてきたが、気に留めずそのまま階段に足を進める。
彼と関わっても碌なことはない。
しかし、彼も彼で僕が返事をしないことを気にせず言葉を続けていた。
「君とは近いうちにまた会う気がするよ。またね。」
その言葉に思わず振り返るが、既に彼の姿は無く、階段から遠ざかる靴音が聞こえた。

冗談じゃない、僕はもう二度と会いたくない。
僕は彼がいたであろう方向を見つめ、思わずくしゃりと顔を歪めた。



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視聴覚室は出会いの場

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