エピローグ | ナノ 「お前…そういうことは早く言えよ…。」
一光は頭を抱えた。
そういうこと、というのは

『話を聞くと夢に出るかもしれない』

と、いうことだろう。
「いや、この手の話は先にそういうこと言うと面白くないでしょ。それともなに、怖いの?眠れないなら添い寝してやろうか。」
「違う!やめろ!いらん!あと、添い寝とかする気なんてさらさらないだろ!」
全力で拒否する一光に、桜井は自分から言い出しておきながら、彼を白い目で見た。
「当たり前じゃん。」
男相手に添い寝なんて死んでもごめんだね、と毒を吐く。
「おまえなぁ…。」
一光は溜息をついた。
そんなことより気になるのは、先ほどの話を怖がっている者がいることだ。


「…夢に出てきたら、どうしよう。」
青い顔をしている長泰。
先ほど、人ならざるものの類に憑かれやすいという話をしたばかりだ。
「寝なきゃいいんじゃないか?」
「目覚めろ。」
「そう簡単に言うなよ…。」
落ち込む長泰に、さらりと言い放つ正則と嘉明。
夢から起きられるかどうかより、そもそも夢と気づけるかどうかが問題だ。

「夢というのは所詮、心理状態の表れや記憶の整理ですから。」
「文字通り夢のない話だな。」
夢のない話であるが、三成なりに気を使ったのだろう。
しかし、仮に三成の言ったとおりだとしても、猿顔の小人が人を虐殺していく夢というのは、別の意味で心配になる。

「大丈夫だって。気にしないのが一番だよ。」
ぽんぽん、と且元が安心させるように長泰の背中をたたく。
「…頑張ります。」
気にしない気にしない…と呪文の様に繰り返す長泰。
それでは逆に気になってしまうのではないだろうか…と、且元は苦笑いをした。



「さ、もう遅い。皆寝支度をしよう。」
「げっ!もう1時じゃん!」
武則と正則の声に、皆が今の時間に気づき寝支度を始めた。
仕切りを外し、大広間にすると、押し入れから布団を出す。
皆でわいわいと準備をしていた、その時。


ピンポーン


「…こんな時間に誰だ?」
既に訪問者が来るような時間ではない。
先ほどしていた話も相まってか、全員に緊張が走った。
「もしかして、幽霊?」
「いやいや、いくらそんな話したからって…ねぇ?」
ははは、と笑いながら且元が玄関に向かおうとする。

が、それを嘉明が服の裾をつかんで止めた。

「嘉明?」
「…。」

彼は何も言わず、ただ、玄関の方を睨んでいる。


ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン…


一定の間隔で鳴らされ続けるインターホン。
例え人であってもこれはおかしいのではないか?
一同が顔を見合わせた、その時。



ガンッ!!



突如聞こえた、鈍い音。



ガチャガチャガチャガチャ!
ガンッ!ガンッ!!



激しくノブを回す音とドアをたたく音。
「うわっ!」
「ひっ!」
「っ?!」
異常な事態だと誰もが察した。
「皆、うかつに動くな!」
安治が声を上げた。
ドアをこじ開けんばかりの激しい音に、閉め切った雨戸をバンバンと叩かれる。
音は激しくなる一方で、収まる気配はない。
自衛の為か、恐怖を紛らわすためか。皆は自然と一つの場所に固まった。
そうして、不審者に備え体制を整えた時、急に音が止んだ。

「…?」
「……と、止まった…?」


次の瞬間、全員の携帯電話が鳴った。
電子音、人気歌手の歌、クラシック、和風音楽にバイブ音。
様々に設定された着信メロディが混ざり合い、辺りは不協和音に包み込まれた。
ある者は顔を青くし、ある者はこわばらせ。またある者は、顔を引きつらせた。

そんな中、嘉明が何事もないかのように、平然と携帯を開いた。
「えっちょ、嘉明!」
長泰が慌てるも、出てしまってからではもう遅い。

「…。」

画面を見た後、嘉明は取り乱す様子もなく携帯を畳んだ。
そして、携帯を放り投げると、玄関に駈け出した。
「お、おい!嘉明!?」
皆が慌てて後を追うと、玄関に見覚えのある…いや、その程度では済まない人が立っていた。



「ただいまー。いや、お邪魔しますの方が正しいのかな?」
「まいど!小西製薬です!…なーんちゃって。」



欠けていたメンバーの吉継。
それと、古くからの知り合いである小西であった。
「吉継!」
「やあ三成。いやー小西にたまたま会ってさ。送ってくれるっていうから、ありがたく送ってもらったんだ。夜中にごめんねー。」
玄関の後ろには見慣れない車が見えた。
きっとそれが、小西の所有車なのだろう。

何があったのかと思えば吉継だったのか、と全員の方の力が抜けた。
「もー吉にい、脅かさんでくれよ…。」
正則の言葉に、吉継と小西はきょとんとした。
「脅かすって?」
「はぁ?惚けるなよ吉継。」
一光がそういうも、吉継の首を傾げるばかりである。
「インターホン鳴らしたり、ドアを開けようとノブを回したことです。」
清正が説明すると、吉継と小西は顔を見合わせた。
小西に至っては、訳が分からないと顔をしかめている。
そして、次に二人から出た言葉に、全員が固まった。



「脅かすも何も、僕らにはできへんて。嘉明くん出てくる直前についた感じやもん。」
「僕、皆にメールしか送ってないし。」





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恐怖は終わらない。

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