油 平野 | ナノ 「よかったね、目潰されなくて。」
「そうだな。片目とか不便そうだし。」
「不便そうって…そういう問題?」
「しかし、霊とかじゃなくて、人だったとしても怖いな。」
「本気で潰しにかかってますからね。」
「こわー!」
「さて、そろそろ話も終盤だね。次は長泰かな?それとも家一?」
「えと、俺です。」
「長泰か。それじゃ、よろしく頼むよ。」
「はい。」





怖い話っていうと、結構色々あって…何から話せばいいか…。
実は俺、霊感はないんですけど、どうにも憑かれやすい体質みたいで。
見える人からは、よく注意されるんですよね。

「そうなのか?」
「だって、無防備すぎ。」
「確かに。」
「えっ」
「…今日は大丈夫だよな?」
「今日は憑いてないから大丈夫。」
「だよな、よかった。」
「えっえっ」

あ、話に戻りますね。
それで、まぁ、結構大変な目には合ってたりするんですが…。
今回は、俺がに憑いた霊を、友人がなんとかしてくれた時の話をします。



俺の家には、友人が諸事情で飼えなくなった猫を預かってるんです。
いつもはドアを開ければ散歩に行くんですが、いつからか、ドアを開けても外に出なくなったんです。
以前、同じように霊が家についてきたとき、同じようなことがあったんです。
家は結界って言葉もあるし、少し怖くなったんですが、こういうことは慣れっこ。多少の事なら平気平気。
…なんて構えていたけど、やっぱり怖いものは怖い。
そんで、とりあえず友人にメールを送っておいたんです。
送った直後くらいから家の外に人の気配を感じて、怖かったので、なるべく窓は開けずにカーテンを閉めして過ごしました。
一人で部屋にいると、インターホンがなったり、ドアが叩かれたり、カーテン越しに黒い影が見えたり…。
それだけで怖かったんですが、見えるのは一瞬だったし、すぐにメールの返事が来たのも救いでした。
『マック奢ってくれるなら、なんとかしてみる』
マックで済むなら安いもんだと、ほっとしました。



その時から、妙な耳鳴りが始まっていました。
主に家の外で、押しつぶしたような妙な音が延々聞こえる。
数日後のバイト中、友人が店に来きました。来たには来たけれど、店に入ろうとしない。
うちの店は自動ドアじゃないんで、押さないと入れないんですが、押そうともしないんです。
ただドアの前で、俺の方を見て唖然としていました。
視線を良く見ると俺の後。
怖かったけど、朝だったし、同じシフトの奴もいたので振り返ってみました。
何もない?
そう思った瞬間、後ろに設置してあった鏡に、俺の背後に人型の黒い影が一瞬だけ映って見えた。
何だこれ!って若干焦りつつも、表面上は真面目に仕事をしてましたよ。



結局友人は店に入らず外で待っていて、俺が上がってマックに行こうと言っても、明らかに帰りたそうな態度で数メートル先を歩いている。
俺の背後の黒いのはそんなにヤバイものなのか!?
そう焦るも、そいつは黙ったまま。


マックに着いて、適当にセット物を頼みました。
けど、友人は食べずに、ジュースだけ時々飲む。
俺の方を見ようともせずに、何か考え込んでました。
「何? なんかヤバいもの憑いてるの?」
正直、俺を怖がらせたいだけなんじゃないかって思ったけど、そいつの目が明らかにヤバかった。
俺としては友人の方が洒落にならんくらい怖かった。

でも、奢ったものなんだから、って強引に進めて食わせたけど、それがまずかったみたいで…。
そいつはトイレに駆け込んだかと思うと、食ったものを全部もどしてきた。
吃驚していると、そいつは涙目で席に戻ってくると、俺にいきなりこんなことを聞いてきました。
「油…なんか心当たりない?」
って。
油? サラダ油とかごま油とか?
心当たりなんて…と、色々思い返す。
そういえば、この間ガソリンスタンドでバイクにガソリン入れたなって、その事を思い出して言った。


途端に、耳鳴りが酷くなった。


今まで普通の耳鳴りレベルだったのが、耳元で楽器を鳴らされているような大音響。
正直、鼓膜が破れそうで目が充血していくのが自分で分かる。
意識が飛びそうになった瞬間、


パンッ!


大きな音がしました。
友人が、俺の目の前で猫だましをしていました。
店員も、俺も吃驚。
でも、同時に音が止んでいました。

俺が耳鳴りと格闘してた間に頼んだのか、友人の前には水が目の前にコップ三、四杯あった。
何かと訊ねるよりも早く、そいつはその水をわざとこぼす。
慌てて駆けつけてきた店員を「すみません、大丈夫ですから。」って、流していました。
俺のズボンはこぼれた水によってびしょびしょ。
それでも、大丈夫大丈夫なんて言いながら、水を全部こぼしてしまった。
当然、店員は嫌な顔をしたが友人は全く気にしていない様子でした。



店を出て、耳鳴りがしない事に気付きました。
あの黒い影はいなくなったらしい。
そう思うと、あれがなんだったのか聞きたくなるもので…。
事情を聞いてみると、そいつは、口元を押さえて眉をひそめました。
「間近で見るのは初めてだったよ。」
そう言って、誤魔化すだけ。
何が、って問い詰めたら、ガソリンスタンドで話聞けばって流されました。



後日、件のガソリンスタンドで、顔なじみの店員さんに、最近何か変わったことがなかったか聞きました。
初めのうちは、何もなかったと言ってたんですが、おそらく忘れていたか話したくなかったんでしょうね。
しつこく訊ねると、ここで売ったガソリンで焼身自殺をした人がいると言われました。
それを聞いて、あれの正体に気付きました。
あの黒い影と、耳元で聞こえた潰れたような声…。
吐き気が込み上げて、俺はトイレで、胃の中の物を全部吐きました。





これで、俺の話は終わりです。
自殺した人と、俺は何の関係もない人だったんですがね…なんで憑いてきたんだろ。
まぁ、無関係なのに…っていうのは、この話に限った話じゃないんですけどね。
いつどこで憑いてくるかわからないんで、皆さんも気を付けてください。
知らないうちに、憑いてきてるかもしれないですよ?



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語り手:平野長泰

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