ストーカーと隣人 嘉明 | ナノ 「こっくりさんか。やって変になった女子とかいたなぁ。」
「うんうん。こう、顔がくくくーって狐みたいになった子とかいたいた。」
「兄さん方の世代には、やってる人いっぱいいたんじゃのう。」
「世代間ギャップを感じます。」
「なんか…そういうこと言われると、地味にショックだ。」
「時代を感じて嫌だねぇ。」
「まぁ、仕方ないことだな。次は誰だ?」

…………。

「…もしかして。おい、嘉明?」
「…んぁ?」
「寝るなよ!」
「嘉明、番号は?」
「七。」
「やっぱりか。」
「じゃ、嘉明の番だからよろしく。」
「はーい。」





皆、さっきから幽霊関係の怖い話しかしてないよね。
怖い話っていえばそうかもだけど、僕、そういう話あんまり怖いと思えないんだ。
だから、僕の話すのは違うベクトルの怖い話。生きた人間による怖い話だよ。



これは、僕の知り合いが話してたこと。
その人の友人が、学寮に住んでいて、隣の部屋に住んでる子に好意を寄せていたみたい。
…めんどくさいから、隣の部屋の子はYにしようか。
それで、その寮って壁は薄くて隣の部屋の音が結構聞こえるんだよね。
彼は、朝、Yが家を出る時間に合わせて玄関を開けて、その子を見送ってたんだって。毎日。
軽くストーカーだよね。やだやだ。



それで、ある日、ベランダの洗濯物を取り込んでる時に、彼はふと隣の部屋を見た。
すると、Yが家を出るときに閉め忘れたのか、隣の部屋の窓の鍵が開いることに気づいた。
彼はいけないことだと思いつつ、ベランダからYの部屋に侵入した。
タンスを漁ったり、ベットに寝転がったり、やりたい放題…。
毎日見送る時点でどうかと思ったけど、これは完全に犯罪だよね。
本当に、なんでそんなことをしたのか神経を疑うよ。


それでさ、そんなことをしているうちにも時間は立っていたわけでさ。
Yが帰ってきてしまったんだ。
今ベランダから出ていったら見つかってしまう、逃げるに逃げられない。そう思った彼は、咄嗟にベットの下に身を隠した。
部屋の子が上着を脱いで、動きやすい格好になり、ぎしりと音を立ててベットに腰かけた。
見つかりはしないかと冷や冷やする彼。耳を澄ますと、Yが何かぶつぶつとつぶやいていた。

「…と、やだ……にち…気持ち悪い。……のやろう…。」

Yは、いきなり立ち上がると何かを手に、部屋を出て行ってしまった。
見つからなかった、とホッとする彼。
次の瞬間。

ピンポーン

少し遠く聞こえる電子音。
聞こえたのは、彼の部屋のインターホンの音だった。

ピンポーン

ピンポーン
ピンポーン
ピンポピンポピンポーン……。


不思議に思い、彼がベットの下から出ようとした。
でも、Yが戻ってくる音がして、急いでまたベットの下に身を隠す。
玄関の戸が開いて、Yが戻ってきた。
戻ってきたYが手に持っていた物。それは―――



包丁だった。



彼は思わず漏れそうになった声を必死に抑えた。
Yは持っていた包丁を見つめて、鼻で笑った。
「いねぇよ。…いつもいるのに……いっつも見てるのに。」
彼がいつも見ていたこと、Yはわかっていたんだ。
「あのやろぉおおおおおお!!」
ぶっ殺してやる!死ね!
物騒な言葉を言いながら、鬼のような形相になったYが、壁を蹴り、殴る。
Yは息を荒げ、包丁を握りしめたままベットに横たわる。
「絶対…殺してやる…。」
そう言って、ケタケタと笑うY。

そんなYの姿を見て、彼は震えていた。
さっきのYの様子を見れば、誰だって本気で殺されると思うもの。
さらに、彼は運がなかった。
こんな時に限って、マナーモードになっていた彼の携帯が、ヴーヴーとなり始めたんだ。
結構マナーモードのバイブ音って、静かな場所だと音が響くんだよね。
Yにばれてしまう。彼は音が漏れないように必死に抑え込こんだ。

着信はたったの30秒。でも、彼にはその30秒が、1分、10分…もしかしたら、1時間以上にも感じたかもしれない。

…止まった。

ホッとして彼が顔上げた瞬間。





Yがベットの上から、顔を逆さにして覗き込んでいた。




彼が恐怖で身動きが取れず固まっていると、にたりと笑ってYはこう言った。

「さっき部屋にいなくてよかったな、お前。」



次の日の朝、すがすがしい表情で家を出るYの姿があったんだって。





これで僕の話は終わり。
ね? 存外、生きてる人間も怖いものでしょ?
…知り合いの友人はどうなったのか?
さぁ…その日以来見てないから知らない。
ん? ああ、ちがうちがう。知り合いがそう言ってたんだよ。
そう。これはあくまで、僕の知り合いから聞いた話…だからね。



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ストーカーと隣人
語り手:加藤嘉明

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