すさまじいこっくりさん 兵助 | ナノ 「先生、何者?」
「自称、ただの民俗学者兼大学教授だよ。」
「どう考えても只者じゃないだろ。」
「ふふっ確かに。不思議な先生だったよ。」
「片兄さんの話が怖くなかった分、次の話は割増で怖く聞こえるかもねー。」
「次って誰?」
「六番目だから俺だ。」
「なんだ、一光か。」
「なんだってなんだよ、家一。」
「ん? 別に?」
「おまえなぁ…。まぁ、いいや。話を始めるぜ。」





皆、こっくりさんって知ってるよな?
霊を利用した占い…いわば降霊術だ。
やり方を簡単に説明すると、『はい』、『いいえ』、鳥居、五十音を書いた紙と、十円玉を使う。
紙の上に十円玉、その十円玉に二人以上の人間が人差し指を置き、こっくりさんに呼びかける。

「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。」

十円玉が『はい』に移動したら、成功。どんな質問にも答えてもらえるっていう話だ。
質問をすべて終えたら、こっくりさんに帰ってもらうようお願いする。
終わった後は、使った紙は燃やして、十円玉はその日のうちに手元から離さないといけないらしい。
キューピットさん、エンジェル様とも言われてるみたいだけど、どれもこっくりさんとほぼ同じ手順を踏むから、同じものと考えていいと思う。
このこっくりさんは、きちんとお帰りいただかないと呪いがかかる…なんて言われてるな。


ん?……こっくりさんは集団催眠だって?
確かにそういう話は聞いたことあるし、実際あり得ることなんじゃないかって俺も思う。
でも俺は、時には本物の霊を呼び寄せることもあるって信じてるんだ。
俺が話すのは、そう信じるようになったきっかけの話だ。



俺が中学生の時、仲が良かったクラスの女子に、こっくりさんのメンバーに誘われたんだ。
こっくりさんの詳しいやり方を調べた子が、試したがっているんだってね。
一晩清めたお酒や、メンバーの唾を混ぜた墨で表を描くとかなんとか…。
よくわからないけど、何となく本格的だな、っていう印象があった。
こっくりさんは男二人女三人で行ったんだが、一人部外者がいた。
Sっていう女子だった。

Sは、クラスでヘリウムガスよりも浮きまくっているようなやつ。
クラスの連中に「あんな奴と付き合うのやめなよ」って言われている自分の友人を見て、にやにやしていたり、陰口をたたいていると、いつの間にかすぐ側でそれを聞いている。
そんなちょっと不気味な奴でだったんだ。

Sは誘われてなかったんだが、たまたま俺たちが準備を終えた頃、教室に入ってきたんだ。
面白そうだから見ててもいいかってね。
皆は良い顔はしてなかったけど、別に干渉するわけでもないって放っておいた。
Sがにやにや笑いながら後ろで見ている中、俺たちはこっくりさんを始めたんだ。



やった結果どうなったか。
怖い話ってんだ。知っているやつは予想がついたと思う。
突然教室が暗くなって、10円玉が熱くなるほどの速さですべりだした。

『いやだ』
『しね』
『じごく』
『もうはなれない』

そういう言葉をつづり続ける十円玉。
接着剤で張り付いたみたいに、離したくても離れない指。
その内、女子の一人が急に白目を剥いて、奇妙な遠吠えのような声を上げた。
半ば消化された昼食を、そっくり吐き戻して失神する。
それでも指は十円玉から離れなかった。

そんな中で俺が一番恐かったのは、スマイリーっていうあだ名を付けられるほど、いつも笑っていたSが、狐目を大きく見開いて唖然としたことだった。
もう全員が完全にパニックで、俺も知る限りの神に助けを求めたよ。
肺の空気も使い果たして、ひゅうひゅうと馬鹿みたいにかすれ声が上がる。


その時だった。
Sが駆け寄ってきて、お神酒をいきなり飲み干したんだ。
「もうお供え物はない!お前に供えるものはないから帰れっ!」
Sが叫ぶ。
それに答えるように、10円玉ががりがりと動いた。

『ま だ に く が あ る』

すると、今度は、Sが全員の腕や方に噛みいた。
「この肉も全部あたしの物だっ。」
それでも十円玉は離れない。

いやだいやだかえらないかえらない。

そう綴り続けるのを見て、Sは十円玉の下に敷かれた紙を引っ張り出して、破り捨てた。
そのあと、墨につばを吐きかけて、その墨で机の上に大きくYESと書いた。
「もう帰るんでしょ?」
抗おうにも机に上にはYESの一語のみ。
十円玉は未練がましく震えた後、動きを止め、やっと指が離れたんだ。
指には水ぶくれが出来てて、何人かは筋も違えていた。


助かった。そう思ったが、なんだか実感がなかった。
呆然としている俺たちをみて、Sは呆れていたよ。

「恐ろしいほどの馬鹿だなぁ、君たちは。君たちの脳は、実はおからなんじゃないのか? 唾というのは、結構強い力を持っているんだから、こんな遊びで使っちゃ駄目なんだよ。遊び半分でこんなことをしたら、今度こそ取り返しつかなくなるよ。」

そう、ため息交じりに言うSだったけど、その眼は真剣そのものだった。
そんなこと言われなくても、もう二度とやるまいと俺は思っていたけどな。





これで俺の話は終わりだ。
俺は、今でもあのこっくりさんは、絶対人間ではない何かの仕業だったと思ってる。
そして、Sが居たから助かったんだって。
まぁ、信じる信じないはそいつの勝手だからな。やるっていうなら俺は止めない。
どうなっても、知らねぇけどな。



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すさまじいこっくりさん
語り手:石河一光

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