顔だけにモザイク 糟屋 | ナノ 「ドアコントがなければ怖かったかもな。」
「ドアコントなんかしとらんわ!」
「無自覚…だと…。」
「もはやギャグでしかない。」
「次のやつは思いっきり怖い話しろよ、not正則的な意味で。」
「なっ…み、皆してなんじゃよー!実際見るとすげぇ怖いんじゃからな、あれ!」
「わかったわかった。」
「ふふっ…じゃあ、次の話に行っていいかな?」
「あ、次は武則兄さんなんですか?」
「ああ。」
「じゃあ、お願いします。」





さて、何の話をしようか。
うーん…じゃあ、私が高校生の時の話でもしようかな。



私が高校生の時、あるレンタル店で、ビデオのレンタル料金が安くなっていたんだ。
その店が、私の学校の近くだったものだから、皆そこを利用してね。
ビデオ鑑賞がちょっとしたブームになっていたんだ。

私も例に漏れず友人達とそのブームに乗っていたよ。
そうだな、友人の名前は仮にAとBとしようか。
ある時、Aが新ジャンル開拓しないかって言い出したんだ。
見たことないジャンルの映画やドラマを見てみようってことだね。
面白そうだと思って、私もBもその案に乗った。
それで、例のレンタル店で、見たことないビデオを適当に借りて、皆で見ることになったんだ。



その日はAの家で見ることになった。
借りたビデオを一つずつ再生する。
あれはよかった、これは合わない、その作品に似たやつなら…という感じで、皆で話しながら見ていたんだ。
三本目を終わって、これで終わりかなって思ったんだが、もう一本ビデオがあったんだ。
タイトルも何もない、真っ黒なテープが。
なんだこれ、って皆で顔を見合わせたよ。
実は、借りたビデオは結局一人一本だったんだ。皆、そのテープを借りた覚えなんてなかった。

「店員さんが間違えて入れたのか?」
「あーそうかも…。」
「いいじゃん見ようぜ、一本得したわー。」

そんなことを言いながら、Aはビデオを再生した。
私は、破棄予定のテープが間違えて入ってしまったんじゃないか、って、思っていたんだけどね。



再生してみたはいいけど、いつまでたっても画面に何も映らない。
予告も出ないし、真っ暗な画面に時々、ちらちらっと、テープの傷である細かな線が入るだけ。
数分そんな画面が続いて、諦めてビデオを取り出そうとした。
その時――


急になにか映りだした。


そこに映っていたのは階段だった。
驚いたよ。だって、その階段はAの家の階段だったんだ。
Aの家は一階がお店で、二階が住居になっている家だった。
お店の脇に細い階段があって、そこからしか二階に上がれない造りになっている。
映っていたのは、その階段だったのさ。


何が何だか分からない状態で、皆で画面を見続ける。
すると、今度は画面に映っている階段から、誰かが上がってきた。
ギョッとしたよ。
そいつは、何故か顔だけにモザイクがかかっていて、片手には、何故か包丁を持っている。

止めないと。

なんでそう思ったのかわからない。直感だった。
すぐに手を伸ばしてデッキを止めようとしたんだが、Bに止められた。
私はすぐに止めるべきだと説いたが、Bは聞き入れない。
「ホントにヤバくなったら、止めるからさ。」
まるでホラー映画を見ている時のような、恐怖と期待と興奮の入り混じった顔をしていたよ。
何かあってからじゃ、遅いっていうのにね。


そんなことをしている内も、テープは再生し続けている。
モザイク人間は、ゆっくり踏みしめるように階段を上ってくる。
カン…カン…という、鉄の階段特融の音を鳴らし、ついに玄関の前まできた。
そいつは、ゆっくり手を挙げ――



いきなり玄関のドアを激しく叩き始めた。

突如、Aの家の玄関が激しく音を鳴らす。
中に入ろうとしているのか、ドアノブを激しく回す音も聞こえる。


ドンドンドンドンドンドンドンドンッ!!
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャッ!!


私は、急いでデッキのコンセントを引き抜いた。
これで止まらなければデッキを叩き壊すしかない。
そう思っていたが、幸いにも、ブツッという音とともにテレビ画面は真っ暗になった。
そして、それと同時にドアを叩く音も消えた。
AとBの方を見ると、二人とも顔を真っ青にして固まっていたよ。



しばらくしてから、私は玄関の様子を見に行ったけど、玄関には誰もいなかった。
階段を降りて、辺りを見回したけど、やっぱり誰もいない。
何事もなかったかのように、ただ暗い道を街灯が照らしているだけだった。

ただ、Aの家入ろうとしたとき、私は気づいてしまったんだ。
Aの家に来たときにはなかった、玄関に包丁でつけたような傷がね。





これで私の話は終わり。
皆も、身に覚えのないものは、不用意に手を出さない方がいいよ。



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顔だけにモザイク
語り手:糟屋武則

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