部屋の隅の少女 清正 | ナノ 「なんか…怖かったけど、可哀想な気もしちゃうね。」
「妹が羨ましかったんだろうな。」
「うーん…そう言われると、弟が居る身としては分からなくないなぁ。」
「見つかってたらどうなってたんだろうね。」
「よ、嘉明…。お前、この流れでそういうことさらっというなよ…。」
「だって気になるじゃん。」
「お前なぁ…もう次行こうぜ。次は?」
「俺です。」
「清正か。じゃ、よろしく頼むよ。」
「はい。」





俺が話すのは、やたら運のいい部活先輩の話だ。
…そう、うちの部長。
ああ、正則や嘉明、三成には説明不要だろうが、兄さん方には説明した方がいいですね。


その先輩は、うちの高校の剣道部の部長で、現主将。
部長は、他校にも名前が知れ渡ってるくらい強いって、有名なんです。
俺の目標の人なんですが、有名な理由はそれだけじゃない。
やたら運が良いってことでも有名なんです。
勘は当たるし、くじ運も良い。なにをしてもいい方向に転ぶ。
…例えば、ですか?
色々ありますけど…最近のだと、ひったくりを捕まえたら、その被害者が有名な資産家の人だったとかで、すごいお礼されたらしいですよ。

でも、そういった運にあまり頼らず、こつこつ真面目に頑張る人なんです。
性格も良いし、頭もいい。その上剣道部主将なんで、結構モテるんですよ。
なのに、絶対彼女を作ろうとしない。
俺は、本当に好きな子としか付き合わないんじゃないかって思ったですが、俺の友達は凄い不思議がって…。
それで、そいつが部長に直接聞いたんです。俺は止めたんですがね…。
でも、部長は怒ることもなく、以外にもその理由をすんなり話してくれました。



部長の話によると、子どもの頃…確か、小学校に上がる前って言ってたかな?
家の中で一人遊んでいると、見知らぬ女の子が部屋の隅に立っているのに気づいたんだと。
変だと思わなかったのかって?ああ、俺も同じこと聞いたよ。
部長の家、結構な資産家の家らしくてさ。昔から来客も多かったんだと。
その時もお客様の子どもかと幼心に思ったらしい。

そんなわけで、部長は何の疑問も持たずに一緒に遊ぼうと誘った。
女の子はこくりと頷いてくれた。
その日一日、女の子と楽しく遊んですごしたんだが、日が沈んでくると、女の子はこんなことを聞いてきたそうだ。

あたしをあんたのお嫁さんにしてくれる?

って。

「お嫁さん?」
「うん、あたしのこと嫌い?あたしはあんたのこと好き。」
「僕も好きだよ。」
「じゃあ、お嫁さんにして。そうしたらあたし、あんたに一生苦労させないから。」

先輩は、うろ覚えだが確かこんな会話だったと思う、って言ってた。
約束を取り付けると少女は嬉しそうに笑って部屋の外に走り出て行ってしまった。
その夜、家族にその話をすると、誰もお客は来ていないということだった。

その次の日から、家の事業業績がうなぎのぼりになったそうだ。
それだけじゃなく、部長自身にも運がつくようになった。そう言っていたな。



ただ、その代りにあることができなくなった。
…そう、最初に言ったあれさ。恋人を作ろうとしない。
いや、正確に言えば作れなくなったんだよ。
これまでに三人付き合ったことはあるらしいが、皆別れちゃうんだと。

付き合いだしてから変なことばっかり起こって怖い

って。
最後に付き合っていた人は結構長続きしたけど、前の二人と同じように、変なことは起こってたらしい。
後から聞いた話だと、相当我慢していたみたいだ。怖かっただろうにな。
その結果なのか、それともほかに原因があったのか…その人、亡くなったらしい。
それ以来もう恋人は作らないって決めたらしい。

「俺の嫁さんは、あの時決まっちまったんだろうな。別の人と付き合えば、怒るのは当たり前ってことか…。」

嫉妬深い座敷わらしみたいなものなのかな、って部長は苦笑いしてたよ。





俺の話はこれで終わりです。
幸運をもたらすものでも、良いことばっかりじゃない。
やっぱり、それなりのリスクがあるってことだ。
どんなに甘い言葉でも、少しでもおかしいところがあれば、受け入れない方がいい。
もし、そいつが人間じゃなければ、いつまでも、どこまでも離れないだろうからな。



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部屋の隅の少女
語り手:加藤清正



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