星空コネクト 行清 | ナノ 大学パロ
清正→建築学部剣道部所属
小西→高校教師 担当数学
休日のルポルタージュ清正サイド
(読まなくても読めます)










合宿一日目の終わり、消灯に向け皆で布団を引いていると、部屋に鳴り響いたシンプルなデジタル音。
充電のため、一か所に固められた携帯電話の群。その中の一つが音を奏で、ランプを点滅させながら主張していた。

「おーい、誰か携帯鳴ってんぞー。」
「あ、俺だ。悪い、外出るわ。」
清正は持っていた敷布団を畳の上に置くと、自身の黒の折りたたみ式の携帯電話を手に取とり、ベランダに繋がる窓へと向かう。
今時その着信音は無いわ!おっさんか!と笑う友人を押しのけ、ついでに軽く背中を蹴ってやった。別に着信音なんてなんだっていいだろう。
友人は、あいたーなんて言いながらまだ笑っていた。


部屋の窓を開け、ベランダに出た。昼間は暖かいとはいえ、やはり夜の空気は冷える。
画面に表示された名前を見て顔をしかめ、左端にある電話マークのボタンを押した。

「はい、加藤で『清正!今どこに居るんや!何時やと思っとるん!』

余りの声量に思わず携帯を耳から遠ざけた。電話口から飛び出すテノールより少し高い声は、声量が大きければ大きいほど耳に刺さる。
俺の返答が無いにもかかわらず、奴の責め立てる声が電話口から止まることは無い。
これは無理にでも此方が切りださないと止まらないと判断し、耳を塞ぎながら通話口に口を近づけた。
『大体連絡も無しn「おい、小西。俺は今日から合宿だって言っただろう。」


…。


『…はぁ!?え、あ、おまっ明日からゆーてへんかった?』
「言ってない。今日からだと言ったはずだ。」
うそだのなんだの言う声に混じり、何かと探る音と紙をめくる音。きっと手帳でも確認しているんだろう。
そんな中でも言った、言ってないの言い合いは止まらない。だって俺は今日からだと伝えた。これは譲れない。
『だって…    あ。』
ほらみろ。
深い溜息を一つつくと、流石に小西も悪いと思ったのだろう。先程とは打って変わった小さな声で謝罪の言葉が聞こえた。
『で、でもホンマ心配したんやで!こんな時間になっても帰ってきーへんから。』
「ちゃんと聞いてないお前が悪い。」
俺は悪くない、と思う反面ずっと外で待っていたのだろうかという不安がふとよぎった。
しかし、

どこだって?
合宿、今日からだったみたいなんや。
なんだ、行長の勘違いじゃん。こっちまで心配しちゃったよー。

なんていうやり取りが電話口遠くから聞こえ、杞憂に終わった。声からすると、もう一人は近所に住む吉継兄さんの声だろう。
外でずっと待ってたわけではないことを知り、少しほっとしたことは黙っておこう。


『なんや今日からやったなんて。折角買ってきたもんが無駄になってしもーたわ。』
「あ゛?また愚痴に付き合わせる気だったのか?」

小西はいわゆる八方美人である。
それを良しと取るか、悪しと取るかは人によるだろうが、俺は嫌いだった。俺から見ると不自然な笑顔張り付けたまま、黒いもの全部腹に溜めこんでるように見えたから。

しかし、ある日を境に、小西は俺に対して遠慮無い物言いをするようになった。
それだけに止まらず、次から次と本性を出し、最終的には何か我慢ならなくなると、酒や菓子やらを買いこんでは俺の家に押し掛け、気の済むまで悪口雑言、泣き言、ネガティブ発言。
そんなことだから、時々…いや、しょっちゅうイラついてしまい、俺と小西は衝突や喧嘩が多い。
しかし、周りの話によると、どうやらこの一連(特に後半)の事は俺にしかしていないらしい。以前、小西と仲が良いという吉継兄さんに相談したところ、多少の愚痴は聞くけれど、泣き言やネガティブ発言など聞いたこと無いと驚いており、そのことに此方まで驚いた。
なので、俺にだけ素の自分を出しているのかもしれない。そう考えるのは自惚れているのかもしれないが、少し嬉しかったりする。
絶対言ってやらないが。


だから、また嫌なことでもあったのだろうと思った。
が、俺の予想は外れたらしく少し拗ねたような声が聞こえた。
『ちゃうわ。今日は別のもんや。』
「別のもの?」
『お守りや、お守り。怪我なく無事戻ってくるよーにゆうおーまーもーりー。』
「お守りって、たかが五日間の合宿だろうが。」
『別にええやん。心配やったんやもん。』
「…あー、その、悪かったな。」
『まぁ、仕方あらへんわ。怪我はせんようにな。』
「ん。」
普段こんなやり取りは滅多にしないからか、なんだか照れ臭かった。

後ろから窓を叩く音が聞こえ、振り返った。窓の向こうの友人が何かを指さしており、指先に視線を向けると、時計が消灯時間に迫っていることを示していた。
「おい、もう消灯の時間だから切るぞ。」
『なんや、相変わらず真面目やなー加藤君はー。』
「うるさい、切るぞ。」
携帯を離し、切ろうとするとあーちょっと待って!と止める声。まったく、なんなんだ。言う事があるなら早く言っておけ。
「なんだ?もう時間がないから手短に…。」


『      』


「−っ!」
『ほな、おやすみなー。怪我とか風邪引かんように気をつけや!』
ブツリと一方的に切られた電話口からは、一定の音程が断続的に流れ続ける。しかし、俺にとってその音を切る事よりも、火照った顔を覚ます方が優先事項だった。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、上昇する温度は顔だけでなく、体全体に緩やかに広がっていく。
ああもう、くそっ!

「これじゃ、部屋に戻れねぇだろうが…!」

俺は同室者に見られない様部屋に背を向け、そのままベランダに居続けることしか出来なかった。



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小西の最後の言葉は「愛してる」

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