泣き叫ぶ本音は海に沈めた 行長と八郎 | ナノ 「弥九郎と清正は、あまり仲良うないのか?」
「はい?」


直家様のご子息である八郎坊っちゃんは、今は秀吉様の元に身を寄せている。
使いで秀吉様の元に来たので、様子を見に来ると嬉しそうに出迎えてくれた。最近あったことや、此方の様子などを話す坊っちゃんはとても楽しそうだ。
そんな中、ふと思い出したように出た質問。
僕と清正いがみ合っている所を、たまたま見かけたそうだ。

「はぁ。まぁ、そうですねぇ。」
あまり触れられたくない質問に、曖昧な答えを返す。
坊っちゃんには、あまりいざこざやドロドロとした関係に首を突っ込んでほしくない。
しかし、坊っちゃんは首を傾げると、もう一度、先程よりはっきりと言った。
「弥九郎は、清正が嫌いなのか?」
「あー…。」


殺したいぐらい嫌いです。


とは、言えなかった。
純粋かつ、優しい坊っちゃんの前でそのようなことは言えない。それに場の空気ぐらい読めますよ、僕は。
「一発殴ってやりたいとは思っとりますね。」
冗談ともとれるように、笑顔を携え軽く言う。
が、正直に言うと、冗談どころか嘘っぱちである。やれることなら、一発どころか抵抗する気が失せてしまうくらいまで殴ってやりたい。

しかし、そんな冗談混じりの言い方をしても、坊っちゃんは目をぱちくりとさせていた。
「ぼ、暴力は駄目じゃ!それにあの清正が相手では弥九郎も怪我をしてしまうのじゃ!」
慌ててたしなめる坊っちゃんに、僕は思わず笑ってしまった。
ほんに、愛らしい人やなぁこの人は。
「冗談ですよ、気に食わんやつだとは思っとりますけどね。そないなことはしませんて。」
笑って答えると、坊っちゃんは安堵の息をつき、笑みを浮かべた。


「弥九郎は優しい人じゃ。口ではそう言っても、そのようなことをする人ではないのじゃ。」


私は知っておるぞ、と屈託のない笑顔を向ける坊っちゃん。
胸の奥にチクリと痛みが走り、同時にずしりと何か重いものが乗った気がした。
分かってないですよ、坊っちゃん。
正直言って、僕はそんな人間ではない。損得で物を考え、見たくないものからは目を背ける。誰に対しても笑顔を張り付け、平気で嘘をつく。
実際、やつのことも嫌いで嫌いで、大嫌いでたまらない。
あぁ、でも…。


(確かに、僕にはあいつを殺せんかもしれへん…。)


力の差とかそういうことではない。
周りの事を考えず、本気で殺そうと思えば毒でもなんでも使えばいいだろう。
しかし、何故かそう思ってしまったのだ。
あいつを殺したら、僕はどうなる。
考えたらゾッとした。まるで底なしの闇に飲まれるように押し寄せる不安感。
何故、どうして。
ぶるり、と体が震えた。

「弥九郎、どうしたのじゃ?」
身震いしたことに気付いたのか、坊っちゃんは心配そうに覗き込んできた。
坊っちゃんに余計な心配かけさせるわけにはいかない。考える事を止め、坊っちゃんを安心させるようにいつもの笑顔を浮かべた。
「なんでもありませんよ、坊っちゃん。」
それに、これ以上考えると知りたくないことを知ってしまう気がした。それがとても怖かった。
そして、そっと心の内で願った。



(どうか、僕があいつより先に死にますように。)



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泣き叫ぶ本音は海に沈めた

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