消えない面影 直家と与太郎 | ナノ
「何を考えているか解らぬお方だ。」
産みの親である父上は、兄であり、今は私の父である直家様を信頼していなかった。
正確に言えば、信頼していないというより恐怖の念を持っている、といった方が正しいのかもしれない。
直家様の前に出る際には常に鎖帷子を着込み、食べ物が出されたときには直家様が手をつけたものしか食べない。
そんな父の恐怖の対象である方の元へ養子となることを聞かされたときは、私はどうなってしまうのかと脅えたものであった。
「与太郎。」
名前を呼ばれ、緊張と不安で思わず体がびくりと震え、慌てて返事を返したら声が上ずってしまった。
そんな私に直家様は少し笑った。
その笑みはとても柔らかく、父から受けた印象とはどこか違う気がした。
「此方へ来なさい。そう緊張せずとも良い。」
言われた通り直家様の元へ行くと、手がとられ体を引き寄せられた。
すっぽりと直家様の体に収められ、吃驚して目を瞬く。
「お前にも忠家にも、すまないと思っている。」
緊張と驚きで強張っていた体が、頭を優しく撫でられ、その心地好さに緊張が解れていく。
目を細めてその心地好さに浸っていると、直家様は私の頭を肩口に埋めるように抱き締めた。
「亀松が、生きていれば…。」
ポツリと囁いた言葉と共に、抱き締める力が強くなった気がした。
あぁ、そうか。
直家様は亀松様と私を重ねてみているのか。
どうやら直家様は、父上が思うほど恐ろしい方ではないようだ。
直家様に聞こえるよう、肩口に埋められた顔を少し上げると、私は初めてこの方を義父上と呼んだ。
直家様は一層強く、私を抱き締めた。
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消えない面影
死んだ息子が忘れられない直家様
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