半回転頭脳 佐吉と紀之介と市松と虎之助 | ナノ 就寝前に書物に目を通すものではない、とつくづく思う。


分かっていてもつい手を伸ばしてしまい、夜更け、下手をすると明け方まで読みふけってしまう。同室の紀之介には幾度となく注意されているが、どうにも止められない。
肺から込み上げてくるなにかを感じ、噛み殺そうとするが、堪え切れずに欠伸が漏れた。

と、そこで角から現れた市松と虎之助。なんと間合いの悪い。
「ぶふっ!佐吉が間抜けなアホ面晒しとるわ。」
予想通り絡んでくる市松だが、正直、相手にするのも面倒な位眠い、面倒くさい、頭が痛い。
「お前の馬鹿面には負けるがな。」
「な…!?誰が馬鹿面じゃ!」
軽くあしらうと、更に喚く。喚くな煩い、頭に響くだろうこの馬鹿が。
内部に痛みを感じ、頭を抱え溜息をつく。

そんな私の様子に何か気付いたのか、虎之助が市松の口を塞いだ。
「むぐっ!?むぐぐ!むむぐぐぐぐ!!」
「佐吉に構ってないで行くぞ、市松。」
こいつは口を塞いでも煩いな、と思い、ふと顔を上げると、虎之助が何か言いたげな様に此方を見ていた。
「なんだ、虎之助。」
「…いや。」
なんでもない、と市松の口をふさいだまま引きずるように去っていった。
なんだったんだ、一体。
ぼんやりと見送るっていると、今朝は朝食準備を手伝わねばならない事を思い出した。
しまった、もうずいぶん時間がたっている。急いで広間へ足を向かわせた。


目的地の寸前に居たのは柱に寄りかかっていた紀之介だった。待ってました、とばかりに此方に笑みを向ける紀之介に、私の頭の中で警鐘が響く。
「おはよう佐吉。」
「お、おはよう紀之介…。」
笑っている、笑っているが目が笑っていない。これは不味い。
今朝、顔も合わせずにこっそり部屋を出て行ったことから感づかれたのだろう。

逃げるように体を反転させたが、相手は紀之介である。
逃がさんとばかりに肩を掴まれ、向き合う形にすると、自分でもひきつっていると分かる頬を摘まれた。
「佐吉、お主は夜更かしをするなと何度言ったらわかるのじゃ?」
摘んできた指にギリギリと力が込められる。
「遅くまで本を読みふけったところでなんになるんじゃ?次の日は体はフラフラ、頭痛と目の隈を携えて、執務に支障が出るだけで何の得にもならんじゃろう?ん?」
「ひゅまんわうかっひゃ!いひゃい、いひゃいぞ!きのふけ!」
「過ぎたことじゃから仕方ないが、ちゃんと反省するんじゃぞ。いいな。」
首を縦に振ると、手が離された。頬がヒリヒリと痛む。跡が残ったらどうしてくれる。


「じゃ、孫六を起こしてきてくれんか?今日は権平がおらんから、まだ寝てるかもしれん。」
孫六はよく眠る。いつもは同室の権平が起こしているが、昨日から権平は遠出していて屋敷にはいない。
起こさなければ一日中寝ているなんてことも起こりそうなので、誰かが起こしに行った方が無難だろう。
「ここはいいのか?」
「あぁ。準備はほとんど済んでおるからな。」
「分かった。」
準備が終わっている、となると自分が思った以上に時間は経っていたようだ。頭の回転が鈍くなっているからだろうか。
孫六を起こしに行くべく、きた道を戻り孫六の部屋へと向かう。まだ痛む頬をさすりながら、もう夜更かししない様に気をつけなければ、と今年何度目かになる反省をした。



その後、四半刻経っても戻らない佐吉の様子を見に行くと、一つの布団で気持ち良さそうに眠る二人が発見された。



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半回転頭脳

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