沈黙の殺意 桜井と佐吉 | ナノ 僕は彼のことが嫌いだ。

彼は元々人に嫌われやすい性格をしている。
人の好き嫌いが激しく、些細なことにも目が届き、どんな状況においても妥協を許さない。この時代において、武勇に優れているわけではないが、その分頭が切れる。
それによってあの方に気に入られ、高位についているということも一つの要因かもしれない。

ともかく、そんな性格の為、彼のことが嫌いな人間はごまんといるだろう。しかし、そのごまんといる人間の中で、僕はきっと最高位にいる。彼の性格がどうだとか、そんなことはどうでもいい。


彼は僕の大切なものを全て奪ったのだ。


勿論、彼はそんな事をしたつもりは無いだろう。しかし、事実なのだ。
元々戦や、政、勘定など、飛びぬけて長けるものなど僕は持っていなかった。しかし、僕は僕なりに出来ることを懸命に励んだ。
そのことは皆評価してくれたし、僕という存在を認めてくれていた。

しかし、市松や虎之助たちが来て、僕という価値は無くなっていった。
そして彼という存在が来てから、僕という存在は消えてしまったのだ。

理由は簡単。
僕と彼は名前が同じだから。

たったそれだけ。されど、そのたったそれだけのことがとても大きいのだ。
彼が優れているから、同じ名が呼ばれてもそれは『僕』ではなく『彼』を必要として皆は呼ぶのだ。
『僕』が呼ばれる日が日に日に減り、『僕』が名で呼ばれることは無くなった。
このことがどんなに僕を悲しめたか苦しめたか傷つけたか!
あの方に必要とされなくなったら僕はどうすればいいのか!
彼が、彼奴が、あの石田の小僧が!
憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!

けれども僕は彼を消すことは出来ないのだ。
だってあの方はそれを望まないから。あの方が望まないことをするのは僕の意思に反する。


しかし、可笑しなことに彼は自分の良き理解者だと思っているらしく、僕のことを甚く好いているようだ。全く可笑しな話である。
僕は殺してやりたいほど彼が嫌いなのに、ね。正直虫唾が走る、吐き気がする。

だが、僕にとってはあの方の為になることが最優先事項なのだ。荒波を立てるわけにはいかない。
だから、今日も僕は偽りの仮面を張り付けて一日を過ごそうと思う。


「桜井!」
「やあ、石田の。今日はなんだかご機嫌だね…へぇーそう、それはよかったじゃないか!」



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沈黙の殺意

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