教えておくれよクックロビン 風間と清瀬 | ナノ 殺人クラブ設定
死ネタ/流血表現有り










最近、ある人物が頭から離れない。
そいつの名前は清瀬尚道。
三年F組。性別は男。
文武両道、明朗快活。誠実で男女問わず人気がある。


顔が広く誰とでも親しい彼は、クラスが違うにもかかわらず、度々このクラスへと顔を出していた。
最初は何とも思っていなかった。ただ、友人伝いに紹介された顔見知り程度。
見た目は容姿の整った好青年。話してみても、見た目通りの明るく気さくな人物だった。
その時は、あぁ、多分いい人なんだろうな…ぐらいにしか思っていなかった。
ただ、よろしくと手を差し出された時に向けられた笑顔が、とても眩しかった。

いつしか彼を見かけると、胸の中を掻き混ぜられるように心が乱れた。
彼が周囲に笑顔を見せると、頭の中に蛆が湧いたような不快感を覚え、ふつふつと苛立ちが込み上げてくる。
それにも関わらず、その笑顔を僕に向けて話しかけられると、今度は胸が熱くなり、せわしなく鼓動を打つ。触れる場所は熱をもち、聞こえる声は思考を麻痺させ、透き通った瞳に見つめられると、息が詰まる思いをした。
彼によって、僕の心はぐちゃぐちゃに浸食されていった。
その感覚が鬱陶しくて、苛立たしくて、不快で。それでいて暖かくて、至福を感じ、心地いい。
目まぐるしく変わる感情に振り回され、自分が自分じゃなくなってしまうのではないかと、酷く恐ろしかった。



次の獲物は、彼にしようよ。
僕がそんな提案をもちかけると、日野は目を大きく瞬かせた後、ケラケラと腹を抱えて笑いだした。ひとしきり笑うと、息を整え、今度はニタニタと厭らしい笑みを浮かべる。
あぁ、この笑顔って部活の時以外でも出来るのか。前々から思っていたが、この笑顔は嫌いだ。
「なんだよ、なんか恨み事でも出来たのかよ。」
恨み。この感情は、彼を恨んでいるからなのだろうか。
分からないけれど、これ以上彼に心を浸食し続けられることが耐えられなかった。
僕の心を此処まで乱したことは重罪だ。
だから、殺す。
彼が居なくなれば、きっと全て元に戻る。
問いに対し考え込んでいると、此方の答えを待たずに日野の許可が下りた。
日野は、どんな事でも自分より上に立つ彼を常々始末したいと思っていたらしい。
そりゃ、日野じゃ彼には敵わないよ。口には出さないものの、心の片隅でそう呟いた。


次の日、集会で集まったメンバーで簡単なミーティング。
新堂は何故彼なのかを執拗に問うていた。そういえば、新堂は彼とは仲が良かったかもしれない。そう思うと、胸が変にざわついた。
反対すれば自分も獲物になるだけだと知っているからか、不満そうであるが引き下がっていた。
岩下もあまり乗り気ではない様子だったが、最終的に自分が殺したら遺体をもらっていいか聞いていた。
彼の容姿が彼女の好みに合っていたのか。それとも、彼女もまた、彼を気に入っていたのかもしれない。彼女の腕に抱かれる彼を想像すると、何故か苛立ちを覚えた。
下級生たちはいつも通り胸を躍らせていた。ただでさえ生徒数の多いこの学校の事だから、面識が無いのも無理は無い。学年が違えば、上級生との交流なんて部活やイベント以外はほとんどないから、尚更だ。
ただ、福沢だけは彼を知っていたようだ。あの人かー!なんてきゃぴきゃぴとはしゃいでいる声が、とても耳障りだった。

ルールはバトル形式になった。1回のチャンスで殺せなければ、次の人にバトンタッチという形式だ。
幸運にも僕の順番は1番だった。もしかしたら、神様は本当にいるのかもしれない。
彼は絶対に僕が殺す。
僕がこの手で殺さないと、きっと意味が無い。



翌日、相談があるんだって旧校舎に呼び出すと、彼は何の疑いも無しにやってきた。本当にお人好し。
窓からは傾き始めた夕日が差し込んで、廊下を、教室を綺麗なオレンジ色に染める。
彼は先に来ており、窓辺に手をついて外を眺めていた。後光が差しているようで、とても綺麗だった。一瞬見惚れてしまうほど。
あぁ、また心がざわつき始める。でも、この感覚もこれで最後だ。
「あ、風間。相談って何?」
そう言って振り向いた彼のお腹に、ナイフを突き立てた。
骨によって守られていないそこは、難なくナイフの奥までずぶずぶと飲み込んでいく。
彼の顔を一瞥すると、現状が理解できていないのか、眼をいっぱいに見開いて自分のお腹に突き立てられたナイフを見ている。
込み上げた血液をごほりと口から零し、僕の白いシャツに赤い花が咲いた。
「  な んで?」
彼の驚愕と悲嘆と苦痛を混じえた問いには答えず、僕はナイフを引き抜き、再度彼のお腹に突き立てた。


その後の事はよく覚えていない。
ただ、太陽が沈みかけ、教室が薄暗くなっていることからかなり時間がたっていることがわかった。
自分の下にいる彼を見下ろすと、白いシャツが赤く染まってお腹がぐちゃぐちゃになっている。多分、同じ行動を繰り返す機械の様に、無心で彼のお腹にナイフを突き立てていたのだろう。
息絶えた彼からは、暖かな血液がどんどん溢れだしていて、きっと体は、それに反比例するようにどんどん冷たくなっているんだろうな。
なんにせよ、これでやっと僕の日常を取り戻せるはずだ。
そう思っていたのに。喜ばしいことなのに。これでいいはずなのに。


どうして涙が止まらないんだろう。


心にぽっかりと穴が空いたようで、息をするのが苦しい。頭がガンガンして、気持ちが悪い。悲しくて、寂しくて、苦しくて、痛くて、怖い。
どうしてこんな気持ちになるんだ。
ひょっとして、僕は取り返しのつかないことをしてしまったんだろうか。
血で真っ赤に染まった彼に触れた。鼓動もなく、呼吸もなく、冷たい。血の気が失せた真っ白な顔は、やけに綺麗で人形の様だった。
死んだことを改めて確認すると、僕の涙は収まるどころかとめどなく流れ落ちていった。
なんなんだよ。何が何だかわからない。
「…っ!くっ…ふぅ……っ!」
もう動くことの無い彼を強く抱きしめて、声を殺して泣き続けた。

僕は未だに、あの感情の名前を知らない。



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教えておくれよクックロビン

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