カイザイクの花 水影と李 | ナノ 「人は、愚かだな。」

ぽつり、と呟いた隊長の言葉。
目の前にいる女に言った言葉なのか。ワタシに言った言葉なのか。はたまた、自分自身に言った言葉なのか。
ワタシには分からない。


目の前の女、というのは、鬼を宿し、破壊と残虐を繰り返した女ある。
先程強制除去を行ったため、彼女の中にいた鬼は小さな黒い妖魔力の塊となって砕けたため、鬼はもういない。
しかし、残虐の鬼女は居なくなったとしても、元の女もまた、存在しないのである。
呼吸をし、血が巡り、温もりがある。
しかし、自ら思考を働かせ、四肢を動かし、言葉を話すことは無い。

女は、生きた人形と化していた。

鬼に取り込まれ、彼女自身もその精神を食われてしまい、彼女を構成する中身は何一つ残っていない。
鬼に侵食されてまで、彼女は何を求めたのか。
見つけたときには、既に強制除去しか選択肢がない状態と化していたため、ワタシたちにその理由を知る手立てはなかった。


「人は愚かだ。」

欲を抑える術を身に付けているにも関わらず、その欲に何処までも手を伸ばす。
その欲は、動物の様な生きるための純粋な本能とは違い、もっと黒く、汚く、醜い。
その底無しの沼が身を滅ぼすというのに、自ら飛び込んでいく。
「全く愚かな生き物だ。」
「…そんな人ばかりじゃないですヨ。それに、隊長も『人』ですヨ。」
再度呟いた隊長に切り返すと、隊長は笑った。
「日々自身に埋め込まれた妖魔力に汚染されていっているこんな私が、人と言えるのだろうか。」
笑みを浮かべた顔とは裏腹に、瞳は悲観に満ちている。
何故、否定的な言葉しか出ないのか不思議に思っていたが、やっとわかった。

この方は人が好きなのだ。
人を愛しているのだ。人でありたいのだ。
なのに、人で無くなりつつある自分が悲しくて、苦しくて、恐れている。
だからこそ、人は愚かな存在だとこじつけて、人という存在を否定したいのだ。

原因がわかっても、今のワタシには…いや、どんな人間でもこの方を救う術は無いのだ。
かける言葉を見つけられず、ただただ、時間が過ぎていく。
かろうじて出た言葉は、それでも隊長は、やっぱり人でス、という言葉であった。
そうかと返す隊長の目は、悲しみを宿したままだった。


「…いつまでも話している場合ではないな。」
任務中であるのにすまない、と言う隊長に対し首を振る。
彼女は家族の元へ連れていかなければならないので、動かないその体を抱き上げた。

「行くぞ。」

任務が再開したというのに、さっきの話が頭から離れない。
あぁ、海よ大地よ!太陽よ月よ星よ天よ神よ!!
どうかどうか、あの方をお救いください



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カイザイクの花
花言葉は永遠の悲しみ。

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