花葬 細川夫婦 | ナノ 死ネタ










既に秋が深まり、冷え込んだ空では星が輝き、明るい月が雲間から覗く。
差し込む月明かりは、飾られた窓にガラスによって色とりどりの光に変わる。
屋敷と違い、天井が高いこの建物内に讃美歌が響く。招いた偉人達によって奏でられる歌は、俺にはどんな意味が込められた歌かということは解らない。
だが、玉に相応しい、美しい歌であることは間違いなかった。

彼女の信じた道の同教である偉人達。彼らの歌が止み、美しい音色を奏でたオルガンと呼ばれる楽器の音が止んだ。
彼らの代表である人物が教典を読み上げ、皆が祈りをささげる。俺もそれに倣い、祈りをささげた。
祈りが終わると集まった人々に、何一つ解らない自分に対し、嫌な顔一つせず、玉の為にこの葬儀を勧めてくれたことに対し感謝の意を述べた。

形式を一通り終え、最後に参列者は花を死者の棺桶に献花するという。
白い小ぶりの菊の花を渡され、玉の眠る棺桶へと近づく。棺桶に美しい玉の姿は無く、小さな骨壷が中央に置かれているだけだった。


駆け付けた時には屋敷は焼け跡となり、墨となった木の残骸が残るのみ。
屋敷が沈下した際に訪れたオルガンティノという神父によって、骨と化した玉を渡された。
これが玉であると信じたくなかった。
しかし、これがまぎれもなく玉なのだった。

小さな骨壷の隣にそっと菊の花を添えた。
小さな菊の花。美しい彼女には、さぞ似合うことだろう。
次々と彼女の周りに置かれ、棺桶は花々で満たされていく。


― 玉、お前はこれで救われたのか? ―


俺に反抗し、異教を信じ続けた玉。自ら命を絶つことなく、最後の時まで救われることを信じ続け、この世を絶った。
玉が何に対して苦を感じ、救いを求めたのかは解らない。
この世か、俺か、それとも自分か。
今となってはそれを知るすべはない。しかし、玉を救うことが出来なかった俺はせめて、果てる時まで貫いたその信念を最後まで果たしてやりたかった。

玉は、俺が愛したたった一人の女であるから。

一度も信じたことのない異教に対し、初めて心の底から願った。


― 神よ、白き花々よ、どうか玉に安らかな眠りを。―


顔を伏せた拍子に、瞳から一筋の雫が零れ落ちた。



---------------
花葬

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -