月光蝶 三成と吉継 | ナノ 皓皓たる月が闇夜を照らし、湿り気の減ってきた涼しげな秋風が頬を撫でる。
まだ綺麗な円を描かぬ十三夜に佐吉は一人、月見酒を堪能していた。
月見酒といっても、それほど酒を飲まない佐吉にとっては、主要は月であり、酒は脇役であった。

(綺麗な夜空だ…。)

満月でないにしろ、金色に輝く月は美しかった。薄雲が程よく月の裾を隠し、空一面に星が輝く。
小さな杯に注がれた酒を一口含む。
それほど高いものではなく、しばらく月を見ていた為にぬるくなっていた酒だが、その一口はとても美味に感じられた。


暫しの間、月と酒を堪能した佐吉は、明日に備えてそろそろ寝ようと思い、立ち上がった。
最後にもう一度、と月を見ると目に映ったのは月を背景に舞う番の蝶。ひらひらと舞う漆黒の羽は、金色に輝く月によってより一層、美しく引き立てられていた。

そんな番の躍りを見て、ふと使いに出ている紀之介が帰ってくるのではないか、という思いがよぎった。根拠など有りはしないが、佐吉には番の蝶がそれを知らせているように思えたのだ。
ならばもう少し、と思い、佐吉は一度離れた腰をもう一度落ち着けた。
その時、聞こえてきたのは廊下を鳴らす足音。

「おぉ、佐吉ではないか。」

まさか本当に帰ってくるとは、と佐吉は内心驚く。
今帰ったぞ、と隣に腰かける親友に労いの言葉をかける。
「お主がこんな時間まで起きているとは珍しいのう。」
先ほどまで佐吉が飲んでいた杯を取り、残りの酒を注ぎ込んだ。
うむ、月が綺麗じゃ、と一言。注いだ酒を一気に飲み干した。

「紀之介が戻ることを知らせたものがいたのでな。」

佐吉は思わずくすり、と笑みを浮かべる。
自身に思い当たらないことを言われた紀之介は、一体何だ、と首を傾げていた。


空を舞う番の蝶はいつの間にか闇夜へと溶けていた。



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月光蝶
Title by あさき

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