幼き日の約束 マサムネ | ナノ 「なぁ、ユキ。暗闇烏ってどっちが継ぐんだろうな。」

マサムネが急にそんなことを言い出した。
暗闇烏は代々、頭領の嫡男が継いできていた為、双子である私たちはどちらが継いでもおかしくなかった。
「さぁな…父上にもお考えがあるだろうから、私には何とも言えんな。」
読んでいた本を閉じ、マサムネの方を向くと、彼は此方に背を向けて寝そべっていた。
「ユキじゃねーの?ユキ、頭良いし、落ち着きがあるし、器用だし、良く気が利くし。」
俺なんかは馬鹿だし、考え無しに動くし、不器用だし、全然気利かないし。
それに…と、いつものマサムネらしくない言葉が次々と漏れ出してきて、驚きを隠せなかった。
もしかしたら、彼は自分より私が優れていると思い、自分に対して劣等感を感じていたのかもしれない。
「マサムネは行動力があるし、咄嗟の判断力も優れている。体力も私よりあるし、何事にも順応するのが早いじゃないか。」
それに、部下達からは私よりも彼の方が好かれているだろう。
彼が持ちえないものを私が持っているのと同様、いや、それ以上に彼は私にはない才を持っている、と私は思っている。
寝そべっているマサムネに近づき、頭を撫でてやる。こうすると、彼は気持ち良さそうに目を細めるのだ。


「何かあったのか?」
マサムネがこんな風に落ち込むことは珍しい。頭を撫でてやりながら、優しく問う。
すると、細めていた双眼が開かれ、漆黒の瞳が揺らいだ。
「…不安なんだ。」
「不安?」
「頭領になるのは1人。でも、俺が頭領になっても父上の様に上手く仲間を仕切っていけるのか?俺には足りないものが多すぎる。
逆に、頭領にならなかったら俺はどうなる?それよりもなにより、」

ユキと離れ離れになりたくない。

この双子の弟はたまにとんでもない爆弾を落としてくれる。
私自身、同じ考えはあったが、それをいとも簡単に口にするとは。
呆れると同時に、愛しさが溢れた。


家督相続人候補が何人もいると、相続した際に候補者が殺されることは少なくない。
ましてや、双子となれば尚更だ。そのことを不安に思うのは私も同じだ。
だが、相続されなかった方が大人しく家督相続というものを諦めないから起こることではないのだろうか?
部下と同様、頭領や仲間を助け合う気持ちを持ち、付き従えば何の問題もないのではないだろうか、と私は思っている。

「マサムネ、完璧な人間なんていない。お前に足りないものがあるように、誰しも欠けている部分は有るものだ。
だが、その欠けている部分を持ちえる者に助けてもらえば、何の問題も無い。
私が頭領になれば、私に無いものをマサムネが補い、マサムネが頭領になれば、マサムネに無いものを私が補う。それでも足りない部分は、部下に補ってもらえばいい。
そうすれば、どちらが頭領になっても大丈夫だろう?
それに離れ離れになることも無い。」

私の考えをそのまま伝えると、マサムネの不安げに揺れていた瞳が一気に晴れたように思えた。

「…そっか、そーだよな。」

やっぱりユキは頭良いわ。流石俺様の片割れ!
なんて、調子の良いことを言っていることから、もう不安は吹っ切れたようだ。
全く単純な片割れだと思う反面、やはりマサムネはこうでないと、と安心し、思わず笑みが零れる。
ユキムネ、と私の名を呼ぶと、身を起こして向き合ってきた。

「何があっても、俺達はずっと一緒だ。約束な!」

差し出された小指に、恥ずかしさから少し躊躇したが、結局私も小指を差し出して互いの指を絡め合う。
数年後、この約束がいとも簡単に切れるなどと思いもせず、私達は互いに笑い合っていた。



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幼き日の約束

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