春色プリズム | ナノ 市松と孫六










立春から初春にかけて、一段と強く吹く風を春一番という。
春一番という言葉通り、この風がふくと以降、温かい日が始まると言われている。
風が吹く度に舞い上がるのは、春の風物詩、さくらの花びら。


ではなく、土埃であった。


風流なんてものは全くなく、目の前に広がる土色の粒子。今日の風は一段と強く、風が吹く度に目を瞑り、顔を背けなければならないほどであった。
そんな中でも仕事は休みになるわけはなく、羽柴秀吉の小姓、福島市松と加藤孫六は使いの為に寺院に向かう。

「前、見えない。」
「孫六ー!はよう来い!そんなんじゃ日が暮れてしまうじゃろが!」
体を抑えつけられるような強風に、目の前を遮る土埃。
こんな突風の中、うんざりしている孫六とは対照的に、いつもと変わらず、いや、いつも以上に市松は元気なように見えた。強風のせいで気持ちが高ぶっているのだろうか。
急かす市松を物ともせずマイペースに進む孫六は、風が強いといえば、とどこかで聞いたことを思い出した。


土埃によって盲人が増える。
盲人が増えれば三味線が売れる。
三味線が売れれば猫が減る。
猫が減ればネズミが増える。
ネズミが増えれば齧られる桶が増える。
桶の需要が増えれば桶屋が儲かる。


なんともまぁ、都合のよい考えだとは思うが、可能性として無くはないことである。限りなく低いが。
そして桶屋と言えば、市松は元桶屋の息子だと言っていた気がする。
あぁ、風が吹くと儲かったから、その名残で気持ちが高揚してるのかも。
なんて思いながら、孫六は息をついた。
「だから市にい、今日絶好調なの?」
市松からしたら突然の質問であり、意味がわからないと顔をしかめる。
「はぁ?なんじゃ突然、ワシはいつでも元気じゃぞ?ほら、はようするんじゃ孫六。」
しびれを切らした市松は、孫六の手を掴かんで歩き出した。

市松に身を任せながら、孫六は穏やかな春に思いをはせる。
暖かくなれば桜が咲き、皆でお花見をするのが恒例。
花を楽しみ、会話を楽しみ、芸を楽しむ。
特に楽しみなのはお寧々様のお弁当、お団子に桜餅。お寧々様の作る甘味は絶品である。
「今年は三色団子あるかな。」
「なんで突然三色団子の話なんじゃ…。孫六の言う事は唐突過ぎて、ワシにはようわからんわ!」
そういいながらも、自分と使いに出されることを拒まない。
見捨てることもせず手を掴んだまま道を行く市松に、意外と面倒見がいいんじゃないか、と孫六は思った。

お昼を知らせる寺の鐘の音が聞こえた。



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小関(旧名:えい)さんへ相互記念

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