賢き鳥は後に備え | ナノ 助右衛門と兵助と…



白と黒で埋められた碁盤。まるで明日の外を予期しているみたいだ、などと思い助右衛門は碁石を片付け始めた。
ふと火鉢を見ると、しばらく付けていたせいか炭が灰に被われているのに気づいた。
消えてしまっては不味い、と炭を火箸でつついて灰を落とす。炭は赤々とした身が現れた。
お湯でも沸かしておこうか、などと考えていると先程碁をさしていた相手、石川兵助が戻ってきた。
「糟屋兄さん、言われた通り風呂の湯沸かしてきたよ。」
「ありがとう、兵助。」
兵助は寒い寒い、と言いながら火鉢の前に座ると手を差し出した。白くなっていた手が、火鉢の熱でじんわりと赤み帯びていく。

「でも、何で風呂を沸かしてこいだなんて?」
「今にわかるよ。」
さっぱりわからない兵助は首をかしげるばかり。助右衛門はというと、結局お湯を沸かすことにしようと思ったのか、戸棚から銅鍋を出し始めた。


その時、ドタドタと足音を立てながら廊下を走る音が聞こえた。

「寒い寒い寒いー!」
「あ、相手だけじゃなく周りに注意しないからこんなことになったんじゃ!」

兵助が部屋から顔を覗かせると、足音を立てていたのは、市松と虎之助だった。何故か二人はびしょ濡れで、水と気温のせいで体温が奪われたのか、顔が真っ青になっている。
「虎之助に市松!風邪引くぞ、風呂沸いてるから暖まってこい!」
慌て兵助が声をかけると、二人はぱっと花が咲いた様な顔をした。兵助の言葉は正に天の助けだっただろう。
「本当か!と、虎はよぅ行こう!」
一目散に風呂へと駆ける市松に代わり、虎之助が兵助兄さん、ありがとうございます、と一礼し、市松を追いかけて行った。

「な、何で水浸しだったんだ?」
「きっと稽古でもしていて、池に落ちたんだろう。」
助右衛門はクスクスと笑いながら答えた。そんな助右衛門を、兵助は少し呆気にとられたように見る。
「もしかして糟屋兄さん、こうなるって分かってたんですか?」
「何年も同じようなことがあればねぇ?」
まぁでも、今年は予想外の水浸しだったけどね、と助右衛門は付け足した。
言われてみれば、去年も、一昨年も誰かが雪でグショグショになっていたことを思い出し、顔を赤くした兵助であった。


(去年は俺で、そのせいで風邪を引いたんだった。)



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部屋で待機組の二人。

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