兎は雪に夢を見て | ナノ 権平と孫六



朝起きた時、やたら冷えると思ったら雪が積もっていた。権平は孫六を起こすと、夜着と敷物を畳む。
この寒さである。敷きっぱなしにしていると、孫六などはまた夢の世界に旅立ってしまいかねない。
畳み終えたところで、権平はいつの間にか孫六の姿が見えなくなっていることに気づいた。どこへ行ったのかと辺りを見回すと、廊下の直ぐ横に積もる雪にてんてんと記された足跡。
上着も襟巻きも着けずに庭に出ていたのを見つけ、権平は慌てて自身の上着を羽織、孫六の上着と襟巻きを掴み後を追った。


何かを作り始めた孫六に、無理矢理上着と襟巻きを装着させた後、権平も雪兎や小さな雪だるまを作った。
が、不器用な権平がつくると、どれも歪な形をしており美しさや可愛らしさが損なわれた。俺には向いてないのだ、と諦めると木に寄りかかりぼんやりと辺りを眺めた。
屋敷の方を見ると、廊下に紀之介に引っ張られてるように連れられた佐吉の姿。あいつも紀之介には敵わないんだな、なんて思っていたら、くしゃみが一つ出た。
寒さで赤くなった鼻を懐の紙でかむと、雪の中にうずくまりせっせと何かを作る孫六へと近づいた。

「孫六、そろそろ…。」
戻ろう、という言葉が出なかった。

孫六が作っていたのは、小さいながらも見事な城だった。その城は細かな所まで気が配られており、雪で作られているためか一層美しく見えた。
「…すごいな。」
思わず口から出た言葉に、孫六はどこか誇らしそうに見えた。
「夢なんだ。」
孫六はそれしか言わなかった。一城の大名になることが夢、ということだろうか。

「孫六ならなれるさ。」

孫六は自分と違って非凡な才能を持っている。馬術に長け、努力や忍耐力、物事を見通す力。この城を見る限り、きっと建築の才能もあるだろうと権平は思った。
先程の言葉に少し嬉しそうな顔をした孫六に権平は口元を綻ばせる。

しかし、それと同時に真っ赤にかじかんだ孫六の手を目にとらえた。
「孫六、戻ろう。」
先程言えなかった言葉に、孫六も素直に頷いた。
この寒さなら誰か部屋で火鉢をつけてるだろうと思い、権平は冷えきった孫六の手を握り、屋敷へと歩き出した。


(…何あれ可愛い。)
(? 何が…って見なくていいよあんなの!)



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雪細工で遊ぶ二人。
孫六が可愛いといったのは、権平が作った歪な雪うさぎのこと。

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