犬は喜び庭駆け回り | ナノ
虎之助と市松
ひんやりと冷えた空気が肌を刺すような、微かな痛みで虎之助は目を覚ました。
襖に目をやると、隙間から微かに射し込まれる光。朝が来たとぼんやりとする頭で知覚すると、一瞬身を震わせた後、夜着を取り払った。欠伸を一つ出した後、深呼吸をして冷たい空気を肺に染み渡らせる。
身体が起きてきた、と感じで始めた時である。足音が聞こえてくる。部屋の前で止まったかと思うと、壊れそうな程の勢いで襖が開いた。
「…市松?」
足音の主は虎之助の親友でもある市松だった。興奮で頬が色づき、嬉々とした顔をしている。
「虎!何ボサッとしとるんじゃ、起きぃ起きぃ!」
「何じゃ、何かあったのか?」
市松の様子に思い当たることのない虎之助は困惑する。すると、市松はにっこりと笑みを浮かべた。
「雪じゃ!雪が積もっとるんじゃ!」
「雪?」
市松に連れられ、廊下へ出ると、一面に広がる見事な銀世界。あぁ、通りで今日は一段と寒い訳だ、と虎之助は思った。
「折角積もっとるから、雪上で模擬試合しようと思ってな。」
虎、早く準備せぇ!と急かす市松。試合を好む市松としては待ちきれないのだろう。
虎之助としても、実力が五分五分の市松と試合をするのは好きであったし、積雪上の試合となると、この時期しかできない貴重なことであった。
わかった、と一言。寝着のままだった虎之助は支度を始めた。
「後で後悔しても知らんぞ?」
「それはこっちの台詞じゃ!」
二人は木で作られた獲物を手に取ると、銀世界へと駆け出した。
((一本限りの真剣勝負じゃ!))
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二人で雪上模擬試合。
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