暇をもてあました神の遊び 勇者ああああとMZD | ナノ ※このお話での勇者ああああ
ゲームの世界からポップンワールドに召喚された勇者。
驚くべき適応能力で順応し、現在ゆうマートでバイト中。
と、いう設定。










第二土曜と第四土曜の深夜一時ちょっとすぎ。必ずやってくる客がいる。
サングラスと、被り物を身に着けた少年だ。見た目からすると、多分中学生ぐらい。
こんな時間に出歩くなんて、全く最近の子供は……なんてことは思うだけ。
俺は注意することも、嫌な顔をすることもなく、ただ、いらっしゃいませの言葉をかけるだけだ。

彼は、来る時間が毎度同じであると同様に、買っていくものも変わらない。500mlのペットボトルジュース。あと、夏ならアイス、冬なら中華まん。
今日も今日とて、少年はお馴染みの時間に来て、お馴染みとなった組み合わせの物をレジへ持って来た。
いつもの流れなら、商品を袋に詰めて、お金をいただいて、レシートとお釣りを渡して、ありがとうございます、またお越しくださいませ。そして、少年は店を出る。
でも、今日はそうはならなかった。


「俺さー、実は神様なんだよね。」


少年が呟いた言葉に、商品を袋に詰めている動きが一瞬止まった。
確かに、お客様は神様とフレーズがある。
しかし、客の立場の人間からそのフレーズを聞いた時は、大抵ろくな目に合わない。
「はぁ、そうなんですかー。」
愛想笑いを浮かべ華麗にスルー。商品を袋に詰める作業を再開するも、少年はなんだか不満そうだった。
「明らかに流してる反応じゃん、それ。例えじゃなくってさ、本当に神様なのよ? 俺。」
若干どころか、ドン引きな俺のことなど気にせず、自称・神様は懐から何かを取り出した。
「いつもお仕事を頑張っている勇者・ああああくんに、神様から良い物を授けようぞ。」

そういって取り出されたのは、綺麗に装飾された箱だった。
長方形で、両手に収まるサイズ。

「この箱は、お前に幸せを届ける箱だ。ただし、絶対に開けちゃいけない。その約束さえ守れば、お前は幸せになれる。」
いわばパンドラの箱…いや、玉手箱?んー…なんか違うな。
そんなことを言って、顎に手を当てる少年を前に、俺は呆れてものも言えなかった。
この客は何を言っているんだ。正直、即刻お帰り願いたい。そして二度と来ないでほしい。
「じゃ、そういうことで。お釣り良いから、募金箱にでも入れといて。」
商品を入れたビニール袋を引っ掴むと、彼は颯爽とコンビニを後にした。
あの箱を置いて。

正直、捨てようと思っていた。
でも、あまりにも綺麗な装飾だったからだろうか。結局俺は、それを捨てずに、ロッカーに入れておいた。そして、その存在をすっかり忘れていた。



どしたことだろうか。近頃やたら運が良い。
連日定時上がりだし、嫌な客も来ない。自給もアップ。臨時収入があったり、何故かトラブルを回避できたり。本当に些細な幸運も多々あり、上げていけばキリがない。
最初は偶然かと思ったが、偶然にしては重なりすぎな気もする。
そんな時、ロッカーに入れっぱなしにしていたあの箱を思い出した。

休憩時間、自分のロッカーを開けて荷物を漁る。
あった。貰った時と変わることのない綺麗な箱。
本当にこれが幸運をもたらしているのか?
そう思うと、なんだか興味がわいてきた。
開けるなと言われていたにも関わらず、俺はその箱を躊躇なく開けてしまった。
「ゲーム?」

中に入っていたのは、携帯ゲーム機だった。
「ソフトは…入っているな。」
電源を入れると、映像と音楽とともに表示される音楽。プッシュスタートの文字が浮かび、スタートボタンを押した。
おどろおどろしい音楽とともに、真っ暗な画面に表示された文字。

『おきのどくですが ぼうけんのしょ 1ばんは きえてしまいました』

「えっ」



その瞬間、視界が揺らぎ暗転した。




気が付くと、俺の目の前には暗闇の中にいた。
「おお、勇者よ。開けてしまうとは情けない。」
声の方に振り向くと、あの少年がいた。彼は、王様が着ていそうなマントと王冠を身に着けている。
「開けちゃダメだって言ったのになぁ。しかも、中に入ってたゲームつけちゃったんだ。」
それがどうかしたっていうんだろうか。と、いうか、ここはどこだ? こいつ、マジで何者なんだ?
「だから、俺は神様だって言ったでしょうが。」
「勝手に人の心を読むな。」


「あのゲームはさ、お前がいた世界なんだよね。」


「は?」
「俺、結構やりこんだんだけど、飽きちゃって。でも、そのままにして置くのはなんか可哀想じゃん。だから、そこから勇者を出してあげたの。それがお前。」
そういって、彼は俺の額を小突いた。


「箱にはちゃーんと、幸せを運ぶ魔法をかけてたんだぜ? お前が頑張っているご褒美にね。でもさぁ…ただ、持ち上げるだけじゃつまらないじゃん? だからリスクを付けた。箱を開けてはいけないっていうね。そして箱にそのゲームを入れておいたんだ。ゲームが入ってたら、電源入れちゃうもんだろう?」
入れなかったらどうするつもりだったんだ?
まぁ、こいつの予想通り、俺は電源を入れてしまったわけだが。


「俺は、箱を開けてはいけないといったのに、お前は忠告を無視して、箱を開けてしまった。そして、俺が予想した通り、お前は中のゲームの電源をつけてしまった。そしたらどうだ? 冒険の書が消えてしまっただろう? では何故消えたのか。それは、そのデータの中に、主人公であるはずのお前がいないからさ。あるはずのものがないのでは、うまく作動しない。その結果、ゲームはそのデータを消去してしまった。  つまり――お前は、自分で自分の世界を消してしまったのさ。」

おお、勇者よ、なんと情けない。

大げさな身振り手振りを交えてそう言う彼に、どうもきな臭さを感じていた。
正直、意味が分からない。ついていけない。
「幸せの箱の効果はなくなって、お前のいた世界も消えてしまった。けど、お前がどうなるってわけじゃない。せいぜい面白おかしく生きな。」
頭を抱える俺の前で、彼は、ぱちりと指を鳴らした。



「あーくん、休憩時間終わりだよー。」
店長の声に、ハッとする。辺りを見回すと、ロッカールーム。
夢でも見たのか?と思ったが、手元に電源の入ったゲームはあったが、あの箱がなくなっている。
小突かれた額に、感覚が残っている気がした。





その後、今まで続いていた幸運が嘘のように無くなった。
いや、無くなったというのは語弊かもしれない。
良いこともあれば悪いこともある、いつもと変わらない極々平和な日常に戻った。そういった方が正しいだろう。
あの頃と変わったことと言えば、手元に残ったゲームを何となく始めたくらいだ。
なんで始めたかというと、やはり少年の言っていたことが、なんだかんだで気になっていたから。
しかし、これはどういうことなのか。
ゲームの内容は、主人公の女の子がさらわれた家族を助けに行くが、徐々に大きな事件へと巻き込まれていく…というシュミレーションRPGだった。

…俺の知っている世界と、全然違うんだが。



後日、同じ時間に、同じものを買いに来た少年に、今度はこっちから話しかけた。
「お客さん、あんた嘘つきだね。」
驚くことも、悪びれる様子もなく、
「あ、バレた?」
なんて言って、小さな神様は悪戯っぽく笑っていた。



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暇をもてあました神の遊び

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