端午の節句



5月5日はこどもの日。

そして、最強孤高な風紀委員長。雲雀恭弥の誕生日でもあった。




















一人、自分の誕生日だという事も忘れ休日の校舎内、応接室に雲雀の姿はあった。高級そうな黒光りするソファーに横になって、暖かな春の風が窓の隙間から流れてくる。のんびりとした穏やかな時間が、雲雀の鋭い空気を些か柔らかく研いだ。今日、自分以外の人間がこの校舎内にはいない。人間は雲雀ただ一人だけ。そう、人間は。一つ溜め息を吐いた途端、扉がコツコツとノックされた。自分以外の人物等居る筈がないのだが…。さて、誰なのだろうか。取り敢えず予想出来るのは風紀委員か…あり得ないけれど教師か誰かか。怪訝そうな顔で身体を持ち上げじっと扉を見つめた。すると、まるで急かすかのように再びコツコツと控えめな音が聞こえる。はあ、と小さく息を吐いて、雲雀は扉に近付きドアを開けた。しかし目の前に見えるのはただの廊下の壁。
誰もいないという事実に次第に腹が立ってきた。自分で開ければいいものをわざわざ自分に開けさせたくせに本人は居ない。不機嫌そうな顔でドアを閉めようとした途端。
足元から聞き慣れた声が響いた。













「ヒバリ、ヒバリ!」
「……君…達…」

雲雀の向いた先には黄色い小鳥、ヒバードがいた。普段から自分にくっついてくる小鳥。特に鬱陶しいと感じた事がなかったから対して気にはしていない。しかしヒバードの隣にこれまたちょこんと座る小動物にも、雲雀は微かな驚きを見せる。ハリネズミのロールは、雲雀の匣兵器の一部。可愛く一声鳴いたと思えば、その小さな口いっぱいに花を加えていた。おまけにここまで引っ張ってきたのだろう、小さめな箱を雲雀の足元へ懸命に押している。







「僕にくれるの?」
「きゅぅん♪」

スッとしゃがんでロールへ問いかける。満面な笑みを浮かべて返事をするロールに、ありがとうと言って箱を受け取った。自分にしてみれば小さめだが、元々身体の小さい小動物のロールやヒバードにとっては大きな荷物だっただろう。空いた掌へロールを乗せて、ヒバードを頭へ乗せたのを確認すると雲雀はドアをパタンと閉めた。

















ソファーへ腰掛けた雲雀の前には二匹のくれた小さい箱が置かれている。その箱の横へ座る二匹は早く早くと急かすように声をあげる。わかったよと返事をして、その小さい箱を開いてみた。するとその中に入っていた物は一切れのロールケーキ。その上にはチョコ板が乗せられていて、ホワイトチョコで「Happy Birthday Hibari」と書かれていた。そして初めて知った、今日が自分の誕生日だという事。というより…まさか二匹にお祝いされるとは。改めて二匹を見ると、ロールは嬉しそうに加えていた花を雲雀に突き出している。






「…ありがとう」

ふっと笑って花を受け取ると、ロールは嬉しそうに雲雀の胸元へ飛び込んだ。




「ヒバリ、オメデト!オメデト!」

続くようにヒバードは雲雀の周りをぐるぐると旋回した。自分の誕生日を嬉しそうに祝う二匹を見て、雲雀はふっと口元が緩んだ。たまにはこんな誕生日もいいかもしれない。生まれてこのかた、ロクに誕生日なんてものを祝ってもらった記憶も無かったし祝ってもらうつもりも無かった。まあ、ある人物一人を除いては。
けれど二匹を見ていると自然と苛立ちは感じない。





「君たちも食べなよ」

フォークに掬ったロールケーキを二匹に差し出すと、それを嬉しそうに食べ始めた。緩く笑いながらその光景を見詰めて、二匹の頭を優しく撫でる。


























いつの間に眠ってしまったのだろう。夕陽に照らされながらソファーに眠る一人と二匹。カチャリと静かに空いた扉にすらも珍しく気付けないまま、すやすやと眠る雲雀の胸元で丸くなるロールとヒバード。そんな一人と二匹を優しい笑みで見詰める一人の人物は、夕陽に照らされる金髪がいつになく映えて、まさに外国の青年を思わせる。柔らかい黒髪を優しく撫でて、静かに耳元で囁いた。








「誕生日おめでとう、恭弥」






次の誕生日は、きっと皆で…



.......end





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